東大
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 人口減少、経済成長率0.5%、原発問題など難題が山積し、あまり元気がない日本。だが、米国より日本を目指す中国人が最近、増えているという。「爆買い」ではない。「爆留学」や「爆就職」という新たな潮流が押し寄せ、日本社会を闊歩しているのだ。ジャーナリストの中島恵が現状を取材した。

「日本の早稲田大学は中国共産党の創始者が留学した大学なので、私の老家(田舎)でもすごく有名。もし私が早稲田の学生になれたら、一生友達や親戚に自慢できますよ!」

 頬を赤らめながら話す黒髪の女性、陳静(仮名)はまだ19歳。中国河南省にある高校を卒業後、中国の大学入学試験は受験せず、日本での進学を夢見て昨年来日した。

 彼女は日本語学校に籍を置きながら、後述する中国人専門の大学進学予備校にも通うダブルスクール族。2校合わせて学費は年間150万円に上り、それ以外に生活費もかかるが、故郷に住む両親はかわいい一人娘のため、喜んで留学資金を出してくれたという。

 拙著『中国人エリートは日本をめざす』(中公新書ラクレ)の取材のため訪れた予備校で、私はこんな話を聞いた。

 今、彼女のようにわざわざ来日して、日本の難関大学進学を目指す中国人がじわじわと増え続けている。

 独立行政法人・日本学生支援機構(JASSO)によると、2015年の中国人留学生数は約9万4千人と全外国人留学生中トップ。全体の約45%に上り、第2位のベトナム人(約3万9千人)を大きく引き離している。留学生の2人に1人が中国人という計算だ。

 東大、京大、一橋、東工大、早稲田、慶應義塾……。そうそうたる大学名と合格者名が書かれた紙を壁一面に貼り出しているのは東京都新宿区にある中国人向け大学進学予備校「名校志向塾」。

 09年に設立した同塾に通う中国人は約1600人。その多くがこれらの難関校を目指して日夜勉強に励んでいる。コリアンタウンとして有名な大久保を中心に、新宿区内には中国人向け進学予備校は10校以上もあり、5千人以上が通っている。

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