中国人向けに大学進学予備校に貼られたポスター
中国人向けに大学進学予備校に貼られたポスター

 国内の過酷な受験戦争や経済力の上昇などを背景に、海外留学ブームが起きている中国。留学先の第1候補はアメリカだが、日本に留学したい、という声が高まっているのだ。アメリカ在住の中国人からは「アメリカより日本の大学に進学している人のほうが幸せで健康そうに見える」という意見もあった。いったい、なぜなのか。ジャーナリストの中島恵が現状を取材した。

 1980年代から90年ごろまでの勢いがある日本ならばともかく、財政赤字が深刻なうえ、東日本大震災からの復興も遅々として進まない「元気のない日本」にあえてなぜ?という気もする。

 その点について、上海在住のビジネスマン、孫一棟(46歳)は日本を目指す中国人の心理をこう説明してくれた。

「多くの中国人から見て、日本はすぐ隣にある最もよいお手本のような国。日本政府のことをほめているのではなく、日本の一般市民についてです。東日本大震災のときのマナーを見て多くの中国人は感動の涙を流しました。いくらアメリカが一番といっても、同じ東洋の日本は最も注目に値する存在。戦後も内乱などで不安定な時代が長かった中国と比べ、日本は驚異的な経済成長を遂げた。日本はなぜこんなにすばらしい国になったのか、その理由を知りたい、と思う中国人は年代を問わず今も非常に多いんです」

 低迷しているとはいえ、中国人が“先進国日本”から学ぶべきものはまだたくさんあるという。

「総合的に見て、中国は日本より30年は遅れているという声も多く聞きます。海外に行きやすくなった今だからこそ、中国人は直接日本で学びたい、自分の目で確かめたい、と思って押し寄せているのです。それは決して日本から何かを奪い去ろうという意味ではなく、勉強させてもらいたい、という気持ちです。日本人が想像するよりもずっと、中国人の日本に対する評価は高いんですよ」

 にわかには信じがたい意見だが、私は複数の中国人からこのような話を聞いた。

 こうした“日本推し”の動きは15年の流行語大賞にも輝いた「爆買い」現象に顕著に表れている。日本人にとってはとくにすばらしいというわけではない温水洗浄便座や高級炊飯器などを彼らがありがたがって大量に買って帰ったことは、逆に「あれだけ経済発展している中国でも、まだ手に入らないものがあるのか?」と日本人を驚かせたし、彼らが素直に日本旅行を楽しみ、日本のよさを発見してくれている姿は日本人にも好意的に受け止められた。

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