ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏は、復興支援として行われた「ポケモンGO」と連携したイベントから浮かび上がった地域おこしの課題を指摘する。

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 11月12日、人気スマホゲーム「ポケモンGO」と連携したイベントが宮城県石巻市の中瀬公園で開催され、1万人以上が集まる大盛況を見せた。このイベントは東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島の3県と地震で被災した熊本県が企画した「位置情報ゲームと連動した被災県観光復興」の一環として行われたもの。「ポケモンGO」を開発・運営するナイアンティック社と連携し、沿岸部の観光客数の回復を目的に掲げている。

 どのように集客するのか。「ポケモンGO」はプレーヤーが街に出て、そこかしこにいるポケモンを捕まえる単純なゲームだ。ポケモンによって出現率は変わり、自分の現在地によっても捕まえられるポケモンが変わる。つまり、レアなポケモンの出現率を任意の地域で上げ、それを告知することで、レアなポケモンを捕獲してゲームを有利に進めたいユーザーを集められるのだ。ナイアンティック社は今回のイベント以前にもポケモンGOと同じ位置情報ゲーム「イングレス」を利用した復興支援イベントを開催し、積極的かつ継続的に位置情報ゲームを地域振興や復興支援に生かそうとしている。人が集まれば訪れた人が地元で食事し、お土産を購入することで地域経済が活性化する。それに加えゲームを通じて、被災地を訪れる人と地元住民が交流し、被災地住民同士の交流も望める。東日本大震災から5年が経過し、被災地を訪れる人も減っている中、誘客や交流を促進するこうした取り組みの重要性は高まるばかりだ。

 
 しかし、大量の人を受け入れる地元側からは戸惑いの声も上がっている。訪れた観光客の一部がマナーを守らないからだ。今回、東北沿岸部でレアなポケモンの出現率が上がったことで、ネットのオークションサイトやフリマアプリには「東北に行ってレアなポケモンをあなたの代わりに捕まえてきます」という「ポケモン捕獲代行業者」の出品が相次いだ。石巻ではイベント期間中、スマホを4~5台同時に抱えて街をうろつく不審なユーザーが見られたそうだが、それらのほとんどはそうした代行業者だ。健全に地域おこしをしたい行政やナイアンティック社にとっては頭の痛い問題だが、ポケモンGOがブームになっているからこそ大量の人が訪問するわけで、過度にゲームの楽しみをそぐような規制も加えにくい。このあたりは痛しかゆしだ。

 しかしこれはポケモンGOに限った話ではない。地域おこし目的で広まる芸術祭や乱立する音楽フェスも、同様の問題を抱える。「よそ者」や新しい文化がすぐに地域で受け入れられないのはどこも同じ。その地域独自の文化としてなじむまで継続的に地域に根ざせるかが成功の鍵となる。そもそも「ゲームで地域おこし」という事例は、スマホが爆発的に普及したここ2~3年で出てきた。いろいろ否定的な意見は出てくるだろうが、ナイアンティック社には位置情報ゲームの雄として今後も被災地の復興に関わり続けてもらいたい。

週刊朝日 2016月12月16日号

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津田大介

津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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