新聞記者出身というのも司馬さんとの共通点だ(撮影/写真部・小林修)
新聞記者出身というのも司馬さんとの共通点だ(撮影/写真部・小林修)

 第20回司馬遼太郎賞は葉室麟さん(65)の『鬼神の如く』(新潮社)に決まった。福岡県久留米市在住。地方紙の記者を経て2005年に『乾山晩愁』で歴史文学賞を取り作家デビューした。時に54歳。『銀漢の賦』で松本清張賞、12年には『蜩ノ記』で直木賞を受賞。

 今回の受賞作は江戸の3大お家騒動の一つ「黒田騒動」をテーマにした歴史小説。世に定着した「愚昧(ぐまい)な藩主忠之vs.家老・栗山大膳」の構図ではなく、叛臣(はんしん)とされる大膳が、福岡・黒田藩を介して江戸日本を救おうとしたという葉室流の視点に立つ。選考委員の作家、辻原登さんは、

「宮本武蔵、柳生十兵衛、天草四郎まで登場させたスリルとサスペンスに満ちたおもしろい作品。フィクションの部分も多いが、何と言っても生き生きとした言葉のやりとりが魅力」

 と強く推したという。

 葉室さんは受賞決定時、仕事で京都にいた。電話会見で受賞の感想を聞かれ、

「高校生のころから司馬先生の作品を次々読んで、尊敬の念とともに小説を書き始めました。その名前のついた賞をいただけるのは光栄の極み。信じられない気持ちで驚いています」

 司馬作品で歴史のおもしろさを知ったという葉室さん。来年1月に出版する本でデビュー以来50冊目の節目を迎える。脂の乗り切った円熟期の作家の一人だ。

 辻原さんから「この作品で新境地を開いたのではないか」と言われたことについて聞かれると、葉室さんはこう答えた。

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