脳は一つのことにしか集中できないという特徴がある。ならば、“がんのこととは関係ないまったく別のこと”に集中すれば、ネガティブな考えを払拭できる、というわけだ。

 適しているのは、できるだけ単純で、動作を伴う作業。楽器の演奏やジグソーパズルなどでもいいが、同書で勧めているのが先の風呂掃除。掃除は日常的に行うもので、こだわると2、3時間はあっという間に経ってしまう。風呂がキレイになるという、うれしい結果も付いてくる。

「単純作業ですが、そこに集中すると終わった頃には『あれ、さっきまで何を考えていたんだろう』となると思います。もちろん、風呂掃除に限らず、ガラス拭き、押し入れの片付けなどでもかまいません」(同)

 三つ目の瞑想には、イライラの払拭、集中力アップ、睡眠の質の向上などの効果があると言われる。宗教的なイメージもあり、トレーニングが必要な気もするが、保坂医師は、「誰にでもできる方法がある」と言う。

 瞑想で最も難しいのが、心を「無」にすることだ。そこで、10分間で燃え尽きるろうそくを利用する。ろうそくに火を付けた後、その揺れる炎を何も考えず、ただジーッと見つめるのだ。ろうそくが燃え尽きた10分後にはスッキリした気分になれるという。香り付きやデザインの凝ったものではなく、シンプルな一般的なろうそくのほうが瞑想には向いている。

 もちろん、こうした取り組みだけでは心が前向きにならないこともある。がん患者の心のケアを行う専門家である精神腫瘍医に診てもらうことも大事だ。

 精神科といえば、ちまたにはメンタルクリニック、心療内科などもあるが、がんを患った人の心のケアはより専門的な知識や技術が必要で、また、カウンセリングなど薬以外での治療法が中心となるため、専門の医師に診てもらったほうがよいという。

 がん患者にとって精神腫瘍医とはどんな存在か。前出のAさんと同じグループ療法を受けている乳がん患者のBさん(20代)は言う。

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