その一方で、受容ができず、うつ病を患ってしまう患者もいる。がん患者の5~10%はうつ病を併発しているというデータもあり、うつ病の前段階であるうつ状態や適応障害を含めると、3人に1人が該当するとも言われている。

 そういう人たちが、長生きできるよう、心の状態を変えていくにはどうしたらいいか。その指南書ともいえるのが保坂医師が今回出版した同書だ。

「抗がん剤やホルモン剤などで投薬治療を受けている患者さんに、これ以上薬は使えない」と話す保坂医師は、抗うつ薬などに頼らないで心を元気にさせる手法をいくつか紹介。いずれも誰にでもできる簡単なものだ。本誌では、そのなかの「運動」「風呂掃除」「瞑想」の三つを紹介する。

 まずは、運動について。

「現在、うつ病発症の原因の一つと考えられているのが、神経伝達物質セロトニンの不足です。気分を安定させる働きがあり、これが不足すると精神のバランスが崩れやすい。このセロトニンを活性化させるのが、運動です」(保坂医師)

 日本で保坂医師らが始めたスポーツ精神医学という医療分野では、こんな研究がある。うつ病患者を薬なしで運動(週3回)だけするグループと、運動をせず抗うつ薬を飲むグループにわけて、その経過を追ったところ、4カ月後に両者は同じぐらいうつ病が改善されたという。

 運動の種類は問わないため、ウォーキングでも、水泳でも、ラジオ体操でも、筋トレでもOK。これを週に3回続けるだけでよい。運動が苦手な人はスクワットがお勧め。10回やって休み、また10回というペースで10分ほど繰り返すと、十分な運動効果が出るという。

 次は風呂掃除。なんでそんなものが?と思う人も多いだろう。実は、風呂掃除はがん患者が陥りがちな誤った思考回路を遮断し、心をリセットさせるスイッチになるそうだ。

「患者さんに接していると、多くは過去を振り返ってがんの原因を探したり、未来のことを考えて不安や心配に陥ったりしがちです。それは患者さんの性格など個人の問題ではなく、脳が勝手に負の考えを作ってしまうためです」(同)

次のページ