がんと聞くと、どうしても「死」という言葉が脳裏に浮かんでしまう。だが、「同じ種類のがん、同じ進行度のがんでも、長生きできる患者さんがいるんです」。

 こう話すのは、『がんでも、なぜか長生きする人の「心」の共通点』(朝日新聞出版)を著した同院精神腫瘍科の保坂隆医師だ。慶応義塾大学医学部を卒業後、同大学の精神神経科を経て、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)やニューヨークにあるがんセンターなどで、サイコオンコロジー(精神腫瘍学。心の状態ががんにどんな影響を与えるかを学ぶ分野)について研究。同院の精神腫瘍科を立ち上げた2010年以降、多くのがん患者の心のケアにあたっている。さらに、緩和ケアチームに入ったときに死生観を勉強するため、高野山大学大学院で仏教、密教を学ぶという、異色の経歴を持つ。

 保坂医師が、日々の臨床経験やこれまで報告されてきたさまざまな研究から見つけたのが、がんでも長生きできる人の“共通点”だった。

「大事なのは、心の持ちようでした。前向きに生きることが大切で、いちばん良くないのは、絶望のまま立ち止まって、前に進めずにいることです。実際、がん患者さんの心のケアによって気持ちが前向きになることで、さまざまなプラスの効果が表れることが、研究からも明らかになっています」(保坂医師)

 心に元気を取り戻すことが、どうして長生きにつながるのか。保坂医師は言う。

「例えば、うつ病になると免疫機能が低下するというデータが数多くあり、うつ病を併発するがん患者さんは、併発していない患者さんよりも、転移や再発の確率が高まることがわかっています。つまり、うつにならないことが、長生きできる一つの秘訣なのです」

 一般的にがん告知を受けた患者は、がんを告げられたショックで頭が真っ白になる。それを専門用語では「衝撃の段階」と呼ぶ。その後、徐々にがんという状態を受け入れる「受容の段階」に進み、やがて、落ち着きを取り戻し、気持ちに折り合いがつけられるようになる「適応の段階」へと至る。そこからがんとの共存が始まるが、保坂医師の経験では、何らかの心のケアを受けたがん患者の7割くらいは、さまざまな過程を経て適応の状態まで進んでいくそうだ。

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