『がんでも、なぜか長生きする人の「心」の共通点』保坂 隆
『がんでも、なぜか長生きする人の「心」の共通点』保坂 隆

 失恋、リストラ、大切な人の死……。生きている間、さまざまな心を痛める出来事に遭遇する。がんの告知はその最たるもの。そこから、どうやって「心の元気」を取り戻すか。実は、前向きな心は「長生き」に結びついているという。

「検診を受けていたのになぜ、という悔しさの持っていき場がない。ずっと眠れませんでした」

 Aさん(40代)は、今年5月、都内のクリニックで乳がんの告知を受けた。

 40歳になってから毎年受けていた婦人科検診。マンモグラフィ(乳房X線撮影)で乳腺の石灰化があることは前からわかっていたが、検診先からは「問題ない」と言われ続けていた。結局、がんは自身の触診でしこりを見つけたことで発覚。確定診断を経て、右乳房を全摘し、現在はホルモン治療を続けている。

 家族や職場の人には心配をかけたくない気持ちから、以前と同じような毎日を過ごすようにつとめ、平静を装っていた。

「周囲を頼っている負い目を感じていました」(Aさん)

 Aさんが心のケアを専門に行う聖路加国際病院(東京都)精神腫瘍科を受診したのが7月。同じ病気を患う9人とともにグループ療法に参加した。グループ療法とは医師や心理士などの専門家の進行のもと、患者同士が少人数で闘病体験や目標を語り合う心理療法だ。

 第1回のグループ療法に臨んだ日の夜、Aさんはぐっすりと眠った。がんの告知を受けて以来、初めてだった。少しずつ悔しさに折り合いがつけられるようになり、気持ちが落ち着いてきたという。

「みんなさまざまな思いでここに集まっている。同じ悲しみを乗り越えた方たちの話を聞くことで、私だけじゃないと視野が広がり、気持ちがラクになりました」(同)

 気持ちの変化は普段、人と接するときの態度にも表れてきた。最近は職場の人から「Aさんと話すと気持ちが落ち着く」と言われるようになったという。

「一歩引いた自分がいて、俯瞰(ふかん)して自分を見るというか。相手のことを自分のことのように思う、共感するトレーニングができてきたからかもしれません。命のことはいつも考えます。以前と違うのは、グループ療法のメンバーやその他の乳がん患者さんについても、心から“結果が良いように”“再発しないように”って思えるようになったことでしょうか」(同)

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