その背景には、多種多様な距離(とくに近い距離)にピントを合わせることが急増している現代の社会環境があるという。昔なら、目から40センチ程度先の手元に焦点が合えばよかったが、スマホ画面は25センチ先、パソコンは60センチ先、テレビは2~4メートル先とまちまちだ。

 ピント調節の役割を担う水晶体は、その距離が変わるたびに必死で厚みを変える。しかも老眼世代は水晶体が硬くなっているから、なおさら負担になる。

 梶田医師のもとには、見え方が原因によるさまざまな病気に悩まされる患者が日々訪れているという。たとえば東京都に住む40代サラリーマン男性。頭痛とめまいがひどく、MRI(磁気共鳴断層撮影)を撮っても原因がわからず、うつ病になりかけていた。「だまされたと思って」遠近両用メガネを作ったところ、潮が引くように痛みがなくなったという。

 記者も梶田医師のもとで処方箋を作ってもらうことにした。検査は4種類で、どこの眼科でもおこなう基本的なものだ。結果を見て、梶田医師はこう言った。

「近くも遠くも、よく見えていませんね」

 は? 近くはともかく、遠くはよく見えるはずですけど……。

「見えた気になっているだけです。目からの情報は脳で処理されるので、経験とカンで理解しているんです。現在、あなたの場合、裸眼で焦点が合う一番近い点は、5メートル以上先です」

 まるでサバンナで暮らす民族……。いや、彼らは遠くも近くも見えるが、記者は裸眼ではテレビにもピントが合わない。衝撃だ。

 遠くも見えていなかった記者の場合、遠用部にも+0.5Dの弱い度を入れる必要があるという。ピントの引き寄せをラクにするためだ。近用部は+1.75D。加入度数は+1.25Dと大幅に下がった。テストレンズを試着したが、遠くから近くに視線を移動しても、驚くほどゆがみを感じない。

週刊朝日 2016年12月9日号より抜粋