西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、年俸交渉のシーズンである今、高額化する球界の金の話をテーマに問題点を指摘する。

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 西武からFAとなった岸孝之、オリックスからFAとなった糸井嘉男という大物が出て注目されたFA戦線は、岸が楽天、糸井が阪神と合意して決着をみた。ともに4年という長期契約のようだ。

 私が現役時代に考えたこともなかった複数年契約はFA制度の導入とともに、2年、3年ではなく、一気に4年、5年という数字を生んでいる。

 これはまず、制度うんぬんよりも、選手の日々の努力により、選手寿命が延びたことが挙げられる。今や30代後半でも実力を示す選手がおり、糸井が35歳、岸が12月で32歳となっても長期契約を勝ち取れる要因となっている。

 とはいえ、球団の故障に対するリスクが増すことには違いない。肝心なのは、選手が複数年契約に対する責任をどう考えるかだ。多額の給料を手にして、その対価をグラウンドで払えないなら、それに対して責任を感じてほしい。

 どこか選手に、「FAは選手の権利であって、それまでの自分の功績に対するもの」との意識が強い気がする。もちろん年俸はそれまでの実績を加味されるものだが、同時に翌年への投資でもある。いま一度、選手がその点を自覚すべきだろう。

 昔、球界に1億円プレーヤーは数人しかいなかったが、今や4億、5億は当たり前の時代である。野球界全体で地位を押し上げてきたわけだから、「自分個人の権利」として得たわけでなく、選手の高年俸には、今後の球界の発展を担う責任料も加わっている。

 お金の話でいえば、日本ハム大谷翔平が仮に2017年オフにポスティングシステムを利用してメジャー移籍を試みようとした場合、現行制度の譲渡金設定の上限2千万ドル(約22億5400万円)をどう考えるか難しい。

 
 今年は日米間の話し合いは見送られたそうだが、来年はそうはいかない。野球協約によると、改定、もしくは破棄する場合には180日前までに日本野球機構(NPB)、大リーグ機構(MLB)のどちらかが声を上げる必要があるという。すでに、12球団でも知恵を絞っていると思うが、現在の球界で最高といえる宝にどういう環境を整えてあげるか。これは、選手の自覚の問題ではなく、球界全体の責任でもある。

 大リーグは、世界各国から才能あふれる選手が集まる。確かに、大谷という存在は大きな注目を集めているようだが、大谷に頼らざるを得ないような球界全体の状況ではない。ポスティングシステムを改定し、譲渡金の上限を引き上げるという考えはないだろう。

 制度のはざまで選手本人が揺れる形には、もっていってほしくない。大谷の場合は、日本ハムが年俸を支えきれない状況で送り出すという側面もあるだろう。

 来年3月にはWBCもある。今年11月の侍ジャパンの強化試合でも、代表選手の中に入っても別格の存在感を示した大谷だからこそ、球界全体で考えてあげる必要がある。ビジネスの側面だけを考えて、日米で綱引きをして選手が気持ち良くプレーする環境が阻害されることだけは、避けてほしい。

 これから各球団の選手が年俸交渉を行う。お金の話が飛び交う時期だからこそ、思うことを書いた。読者のみなさんはどんなお考えをお持ちだろうか。

週刊朝日  2016年12月9日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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