「極東ですらマーケットとして価値が高いとは言えない。まして、北方領土での共同経済活動は日本企業にとって利益にはならない」

 安倍首相はなぜ、ここまで北方領土交渉にのめり込んだのか。外交評論家の小山貴氏はこう指摘する。

「日本の外交は同盟国である米国の意向を常に反映している。経済協力はロシアが経済面で依存する中国との関係に日本がくさびを打つよう米国が仕向けた意味合いが強い」

 さらに、プーチン大統領の“日本軽視”を決定づける情報が出た。

 11月22日にはインタファクス通信が、択捉、国後両島でロシア軍による地対艦ミサイル「バル」と「バスチオン」の配備が完了したと報じた。

「オホーツク海に囲まれた択捉、国後両島は米国の艦船が入れないようにするための重要な軍事的要衝だ。プーチン氏の軍部への指示は明らかで、ロシアが北方領土でさらに基地建設や兵器配備を進め、軍事拠点化を強める姿勢の証左だ。ロシアにとって、アジア太平洋方面の国境防衛の絶対に譲れない防波堤で、返還はあり得ない」(小山氏)

 暗雲が垂れ込める交渉の行方は一体どうなるのか? 前出の下斗米氏は9月末、中国・上海でプーチン氏側近と会い、「『(首脳)2人だけの合意事項がある。知っているのは2人だけ』と言っていた。首相の政治決断に尽きる」と語る。

 その合意事項とは何か?

「保秘が徹底されている。首相はどれだけ親しい人にも、胸の内は明かさない」(側近)

 前出の木村氏は言う。

「安倍首相が任期中に交渉をまとめようと期限を設定することは、それだけで敗北に導く愚行と言わざるを得ない。ロシアは日本が早期妥結を欲していることを知って、故意に焦(じ)らしや引き延ばし戦術に出ることが必定だ。首相は父親(晋太郎元外相)が成しえなかった領土問題解決への思い入れが強すぎる。外交は国益が最優先されるべきもので、このままでは言われるがままの“お坊ちゃま”外交になってしまう。東京五輪後ぐらいに本当のチャンスがくる。条約交渉はそれだけ時間がかかる」(本誌・村上新太郎)

週刊朝日 2016年12月9日号