ジャーナリストの田原総一朗氏は、現在、世界で目立っているリーダーたちの名を上げ、この時代の特徴を指摘する。

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 トランプ次期米大統領が23日、新政権の国連大使に、サウスカロライナ州のニッキー・ヘイリー知事を起用すると発表した。

 ヘイリー氏はインド系の女性知事で、トランプ氏が新政権の主要ポストで女性や非白人を指名したのは今回が初めてだ。彼女は大統領選の共和党候補者指名争いではトランプ氏のライバルだったルビオ上院議員を支援。排外主義的発言を繰り返すトランプ氏を批判していたが、同氏が候補に指名された後は、「ファンではない」としながらも、トランプ氏に投票すると宣言していた。

 トランプ氏はヘイリー氏起用について「ヘイリー知事は、州や国の改善のための政策を前進させるため、(人物の)背景や所属政党にこだわらず、人々を団結させてきた実績がある」として、その交渉力に期待していると強調した。

 トランプ氏は排外主義や女性蔑視発言などで物議をかもしたうえ、新政権の主要ポストには白人男性の名前ばかりが挙がり、それも力で問題を処理しようという人物が多かった。その意味ではインド系女性を起用することで、ある種バランスをとる狙いがあった、とみられる。ただ、バランスをとることで逆に新政権は内部抗争が激しくなるのではないか、という見方もある。

 トランプ氏は「米国は世界の警察をやめる」と宣言した。実は「世界の警察をやめる」と先に言ったのはオバマ大統領だ。「世界の警察」であるために、米国は莫大(ばくだい)な費用を使い、兵士の犠牲も多い。それでいて、「世界の警察」として実施したアフガン戦争、イラク戦争は世界の強い非難を浴び、だからイラク戦争に反対したオバマ氏が初の黒人大統領となったのである。

 
 だが、トランプ氏の主張は「オバマ大統領は世界の警察をやめると言いながら、現実にはやめていない。そこで、自分は本当に世界の警察をやめる」というものだ。だからトランプ氏は「軍縮」かというと、逆に彼がやろうとしているのは明らかに「軍拡」だ。トランプ政権の主要ポストは、いずれも対イスラム強硬派で、しかも彼ははっきりと、海軍力や海兵隊は増強すると言っている。そして、力による平和を打ち立てるのだと強調している。

 もっとも、トランプ氏は米国の軍事力だけで平和を打ち立てるのではなく、北大西洋条約機構(NATO)各国、そして日本にも防衛費の増額を求めてくるようだ。そして、このことが、アメリカが「世界の警察をやめる」という意味のようだ。

 そもそもトランプ氏当選の原動力は、米国の理想であったグローバリズムが行き詰まり、その矛盾に耐え切れなくなった多くの米国民がトランプ氏に票を投じたことだった。少し前には英国のEUからの離脱決定という出来事が起きた。2度の世界大戦で欧州全土が戦場となり、多数の市民が犠牲になったので、再び戦争を起こしてはならないということでEUがつくられた。その意味でEUは欧州の理想のかたちだったのだが、英国民の多くがEUの矛盾に追い詰められ、理想を追うゆとりをなくし、離脱に票を投じたのだ。

 トランプ、プーチン、習近平、エルドアン、ドゥテルテ……。現在目立っているのは、デモクラシーとは対極にいるリーダーたちである。世界の多くの国が、理想を求めるゆとりと展望をなくしているということなのだろうか。

週刊朝日 2016年12月9日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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