前出の宮本氏もキューバ大使時代、カストロ兄弟の危機管理の徹底ぶりを目にしている。

「外国の要人の前に身をさらす際には防弾チョッキを着用し、着ぶくれしていました。米国のテロに狙われるかもしれないからです。しかも、兄弟が一緒に出ることはなかった」

 カストロは08年、弟のラウルに正式に国家評議会議長の座を譲った。キューバはその後も持続可能な社会主義を目指しつつ、市場原理も導入。海外からの投資も増やした。昨夏、54年ぶりに米国との国交が回復。今年3月には、オバマが現職米大統領として88年ぶりにハバナを訪ね、ラウルとの歴史的会談が実現した。

 次期米大統領がトランプとなり、米国との新しい関係性を築く重要な時期に、キューバは国民的英雄を失った。キューバ事情に詳しいジャーナリストの工藤律子氏は言う。

「大きな混乱は起きないのでは。政権はラウルに完全に移っているし、市民の間ではポスト・ラウルも話題にのぼるくらい。若い世代はすでにフィデル時代ではないキューバを生きようとしています」

 外交について、前出の宮本氏はこんな見方をする。

「カストロ兄弟は、ゲリラ戦を生き延び、大国ソ連崩壊後も生き抜いた。何代にもわたる米大統領とやりあってきたんです。ラウルも芯が強くて海千山千ですから、トランプの登場くらいでは動じないでしょう」

週刊朝日 2016年12月9日号