作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、男社会の中で上から目線で使われる「女子力」に、うんざりしているという。

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「女子力」、早く死語にならないかな。2009年流行語大賞にノミネートされてから、既に7年。もはや日常語として定着してしまった感がある。そもそも「きれいになりたい」と努力する女の様子を、漫画家の安野モヨコさんが名付けたのが始まりだったというが、今、本来の意味で使用されることなど皆無だろう。男が女に期待する役割に応えられる力=「女子力」という利用方法がほとんどで、しかも、女性をかまいたい男性の使用率が高いのが実情だ。

 途上国の女性を支援するNGOジョイセフが作製した動画が、最近、炎上した。「日本の女子たちは本当に女子力が高いのか」というタイトルで、20代の女性数人が一人ずつカメラの前で「子宮の大きさは?」「正しい避妊方法は?」「コンドームを自分で買ったことはあるか?」といった質問に答えていく。性と生殖に関する知識の啓蒙目的らしいが、答えが「正しくない」と、カメラ側にいる見えない誰かから白い粉をドバッとかけられ、最後には全員が真っ白になる。明るい調子で性を考えよう、という意図なんだろうけど、「コンドームを自分で買ったことある?」という質問に、「買おうと思ったことがない」とか「男の役割」と答えた女性に勢いよく粉がかけられるのを、平常心では見られなかった。

 
 生殖に関わる男の責任も存在もそこにはないのに、若い女性のリアクションを、にやつきながら見ている「誰か」の視線が画面から伝わってくるのが気持ち悪いからだろうか。女に暴力振るって反応を楽しむAVや、芸人虐(いじ)めて反応を笑うバラエティーと全く同じ文脈の「娯楽」に見えるからだろうか。空気のように漂う性差別感情で、命に関わる性と生殖の問題を語る無自覚に目眩(めまい)がする。さらに粉まみれになった女性に向ける言葉がこれ→「真の女子力で幸せつかめ」。うるせぇよ、ジョイセフ(ジョイセフはネットでの批判の後、動画を非公開にした)。

 つくづくこの国の性差別は、陰湿な虐めと幼稚な暴力で、女を深く苦しめている。女を弄り楽しむ表現に溢れ、文句言おうものなら「ふざけてるだけ」と開き直ったり、「(昔は許されてたのに)息苦しい世の中になった」とか「表現の自由だ」とか、大きな話持ち出してきたりね。

 先日、友だちにすすめられた尾崎衣良さんの『深夜のダメ恋図鑑』(フラワーコミックス)を一気読みした。ダメ男を女がバサバサ斬る様があまりにも爽快だった。帰宅後に「疲れた」を連発し家事を一切しない男に「あたしは仕事に家事にオマエの世話で疲れてるけど」「仕事だけしかしてない人間がいったい何をしてそんなに疲れるの? まさか息?」と真顔で聞いたり。女にお茶いれてもらうの当然な顔して待ってる男に「(目の前のボタン一つ押そうともしないなんて)こいつ無能なのかしら」。上から目線で「女子力」云々言われる地獄より、差別男に世の中の道理ってものを教えてあげられる女でいたいものです。幸せになりたいので。

週刊朝日  2016年12月2日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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