自衛隊の「駆けつけ警護」を認めたことで揺れる国会。ジャーナリストの田原総一朗氏はPKOの「交戦権」に焦点を当て、憲法との関係性からその矛盾を問う。

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 南スーダンの国連平和維持活動(PKO)をめぐり、政府は11月15日の閣議で、陸上自衛隊の派遣部隊に安全保障関連法に基づく新たな任務として、「駆けつけ警護」を付与することを決めた。

 閣議決定を受け、稲田朋美防衛相が18日に、派遣部隊に対して活動範囲を「首都ジュバ及びその周辺地域」に限定する命令を出し、20日から順次現地へ出発。12月12日から駆けつけ警護の実施が可能になる。

 だが、現地の治安情勢は悪化していて、国会では野党側から「PKO参加5原則は崩れている」「自衛隊員のリスクが高まる」との指摘が相次いだことなどから、閣議決定に合わせて「新任務付与に関する基本的な考え方」を発表した。「考え方」では、施設部隊である自衛隊は「治安維持は任務ではない」とし、「他国の軍人を駆けつけ警護することは想定されない」と明記。自衛隊の出動は「他に対応できる国連部隊が存在しないといった、極めて限定的な場面で緊急の要請を受けた、応急的かつ一時的な措置」と明示した。

 ところが、PKOに詳しい伊勢崎賢治さんに、南スーダンの状況は、憲法との兼ね合いで設けられたPKO参加5原則の範囲内かと問うと、「南スーダンに限らず、今やPKOに参加すること自体が、あきらかに憲法違反だ」と答えた。

「実はPKOのあり方が大きく変わったのです。きっかけは1994年のルワンダの虐殺。PKO部隊の目の前で停戦合意が決裂し、住民同士の殺し合いになりました。PKOは撤退し、約100万人が死亡、国連に対する批判が高まりました」

 そして99年に、当時のアナン国連事務総長が、任務遂行のために必要ならばPKOが「紛争の当事者」になって、「交戦」することを明確にしたのだという。

 
「ということは、停戦合意の有無は関係なく、住民保護のためにはPKOが中立の立場を放棄することもあるし、武器使用も必要最小限とは言えなくなりました」

 それでは日本が掲げている「PKO参加5原則」はどういうことになるのか。

「まったく意味をなさなくなった、ということです」

 日本の自衛隊には「交戦権」はないはずだから、そうなると自衛隊はPKOに参加できなくなるわけだが、国会では紛争当事者間の停戦合意が維持されているかどうかの議論ばかりが繰り返されている。自民党も野党も99年にPKOのあり方が変わったことを知らないのだろうか。そのことを問うと、「まさか、そんなことはあり得ないでしょう」と伊勢崎さんは笑って言った。

 それにしても、紛争当事者間の停戦合意の維持に関係なく、交戦するPKOへの参加自体が憲法違反だということが、なぜメディアでも問題にならないのか。私自身は誠にお粗末で、伊勢崎さんに話を聞くまでPKOのあり方が変わったことを知らなかったのだが、与野党の政治家たちが、本気で国際貢献を考えているのならば、憲法と矛盾しない代替案を考えなければならないはずだ。

 伊勢崎さんは、国連PKOへの財政支援、また非武装の軍事監視団に自衛隊幹部を派遣する、さらに文民警察を出すなどの代替案を示しているが、こうした論議が、国会でもメディアでもまったく行われないのは、なぜなのか。などと言っている私のほうが滑稽なのだろうか。

週刊朝日  2016年12月2日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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