──「聖杯たちの騎士」はハリウッドの脚本家であるリック(クリスチャン・ベイル)の心の空洞を、家族や恋人などとの関係をからめながら描かれます。監督は撮影方法と考え方も、とても個性的だそうですね。

「そうなの。偶発的に起こることを映画に取り入れるあたりなんて特にそうよ。他の監督なら間違いとみなすようなことを積極的に取り入れていくの。ふつう撮影中、カメラに余計な人が入っていると、出て!って叱られて、そこを撮り直しする。ところがマリックの場合、その人と話をして、それをシーンの中に入れようとするの。例えば美しい鳥が飛んできたら、撮影を中止してその鳥を何時間も撮影したり……。その仕事の方法がとても美しいのよ」

──恋人役のクリスチャン・ベイルは一切、脚本がなかったようですが、あなたは?

「私は脚本をもらったけれど、その脚本にしても、演技の説明は書き込まれていないの。台詞だけ。その台詞も多くの場合は、口語ではなくて、思いというか感情を記述してあるだけ。台詞によってはとても長い説明があった。そのまま台詞にしたら20分のモノローグになりそうな。意識の流れが記されていて、その中から自分の台詞として3、4行使えそうなものを選んだりしたの」

──ハーバード大学の哲学科を首席で卒業後、映画作りの道に入った監督は今回、宇宙という空間における人間の存在を音量や光量にこだわる映像で表現する手法で、映画という芸術の意味を問いかけました。監督は一切、取材に応じていません。こうやってあなたが彼の映画制作の秘訣について話すことを彼は気にしませんか?

「気にしないと願っているわ! 彼には話すな、と言われていないし。彼のやっていることが秘密なわけでもないし……。彼はとても寛大で気前のいい人だから、こうやって私たちが彼の映画作りについての体験を分かち合うことを喜んでくれると思う。そんな人なのよ。常に他の方法が可能だということを教えてくれる。とても寛容な人だから、自分の考えを人に知られたくないから、という理由で取材を受けないのではないと思う。彼は自己中心的な考え方はしない人だから」

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