10日の衆院本会議で環太平洋経済連携協定(TPP)承認案と関連法案が可決された。議論半ばで採決に至ったことに、作家の室井佑月氏は怒りを露わにする。

*  *  *

 衆院環太平洋経済連携協定(TPP)特別委員会は、11月4日午後、自民党・公明党、野党である日本維新の会の賛成多数で可決した。

 結局、強行採決じゃん。安倍総理のお仲間の「強行採決(すればよい)」という発言が問題になっていたが、強行採決は自民党内で暗黙の了解になってたんでしょ?

 安倍さんは、その発言が問題とされたとき、国会でこう言った。

「円滑に議論し、議論が熟した際には採決する。民主主義のルールにのっとっていくのは当然のこと」

 さらに、

「我が党は結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」

 とまで言い切った。

 ……。もう言葉も出て来ませんな。よく、そんな嘘が平気でつける。

 この方、ヤバいのではないか? 小説や映画に出て来るサイコパスかもしれん。

 忘れもしない、昨年9月の安全保障関連法案の審議。参院特別委で速記担当者も聴取不能とまでなったもみ合いの中、行われたことはなんだったのですか?

 恐ろしい人だ。首相の言葉を裏返せば、円滑に議論しない、議論が成熟した際に採決をしようとしない、民主主義なんて糞食らえと考えているってか?

 この人は、この国をいったいどこへ持っていこうとしているのだろうか?

 
 4日に発効された「パリ協定」。国際社会は「低炭素」から「脱炭素」に切り替わった。多くの国が地球温暖化を防ごうと、190カ国以上が参加、温暖化対策にこれまで消極的だった米国や中国さえ同意した。

 だが、日本はほかの国とすっきり足並みを揃えられなかった。TPPの国内審議が大変で乗り遅れたと書いてあった新聞があるけど、そういうことじゃないだろう(てか、TPPを強硬に推し進めるのも意味不明)。

 なんでもいいから安い電力が欲しいこの国の経済界に逆らう気もないし、首相もおなじ考え方なのかもしれない。途上国に金をばらまき、悦に入る。その金、税金なんですが……。自分だけが良い目をみればいい。

 それと、馬鹿のひとつ覚えみたいに原発依存をやめないし。世界は地球環境のため、再生可能な自然エネルギーへシフトしていっているというのに、この国は莫大な国費を原発につぎ込んで後戻りできないでいる。

 自分さえよければ、金さえ儲かれば……そういう考えで、首相がよく言う「(世界で)リーダーシップ」を発揮できる国になれるのかしら?

 核兵器を法的に禁止する国連の「核兵器禁止条約」交渉開始決議にも反対したしな。123カ国が、勇気を持って賛成したのに。

 この国は唯一の戦争の被爆国なのだから、こういうところでリーダーシップを発揮せずしてどうする? 核兵器がない世界を目指そうと、声高に訴えるべきじゃん。ほかの非核保有国からは、とんだ裏切り者に見えただろう。一国民として、恥ずかしくてならない。

週刊朝日 2016年11月25日号

著者プロフィールを見る
室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

室井佑月の記事一覧はこちら