ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏が、過熱するネット通販サイトの競争に迫る。

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 アマゾン楽天、ヨドバシカメラ、ヤフー……。ネットを利用した通販サイトの競争が激化の一途をたどっている。

 リアルショップよりも価格が安く、取扱商品が豊富なのはもはや当たり前。そこで大きな差がつかなくなった今、各社とも「単にモノを売る」だけでなく、さまざまな付加価値をつけて消費者を引き寄せようと努力している。

 中でも大きな付加価値の一つが「配送」だ。アマゾンは年会費3900円の「プライムサービス」を契約すれば、注文した商品が最短で当日に届く。さらに関東や近畿の一部地域が対象になっている「プライム・ナウ」サービスを利用できれば、なんと最短1時間以内に届くというから驚きだ。

 これに対抗するのが通販分野でアマゾンを猛追するヨドバシカメラ。これまで同社は注文から最短6時間で配達、深夜の注文にも対応する「ヨドバシエクスプレスメール便」を提供し、好評を博していたが、9月15日に同サービスをリニューアル。対象地域と内容を充実させた「ヨドバシエクストリーム」を開始した。配達時間は、注文から最短2時間半。

 これだけ見るとアマゾンのプライム・ナウに劣るが、配送料は無料。そして「24時間再配達」という大きなメリットがある。通常、商品を受け取れなかった場合、再配達は運送業者の営業時間(通常8時から21時ごろまで)しか指定できない。ところが、ヨドバシエクストリームで買った商品は深夜であっても再配達できる。

 
 ヨドバシカメラはこのサービスを実現するため、既存の物流業者に頼らず、100%自社による配送網を構築。きめ細かな配送でアマゾンの牙城(がじょう)を突き崩そうとしている。

 ネットを使って新しい商品流通の形を示したという意味では、9月29日に東京都心部で開始されたフードデリバリーサービス「UberEATS」にも注目だ。同サービスの特徴はヨドバシカメラとは正反対に自社で配送網を一切持たないところ。配達員登録をした一般の人が、注文が入ったら店舗から食事を運送する形式を取っている。レストランにとっても、自前で配送スタッフを雇わずに宅配サービスを展開できるため、メリットも大きい。この仕組みは大きく広まりそうだ。

 ネットをフル活用することで大きく進化する「物流」だが、配送コストを下げるために配送員の賃金カットも行われている。UberEATSも配送員が配送中に事故を起こした場合、被害者にはUber社の保険が適用されるが、一般の配送スタッフには適用されない。これもネット時代ならではのコストカットの一形態と言えよう。

 便利さの陰でつい目をそらしがちな「流通コスト」。そのコストは誰が負担すればいいのか。今のコストカットの形は本当に正しいのか。物流が大幅に進化しようとしている今だからこそ、我々はこの問題を真剣に考える必要がある。

週刊朝日  2016月11月11日号

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津田大介

津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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