落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「一石二鳥」。
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元々イギリスのことわざだそうな、《一石二鳥》。
イギリスの方々は簡単に言うけど、一つの石で鳥を2羽同時に落とすなんてこと、本当にできるんだろうか?
「いやいや、『たとえ』だから」ってあなたは言います? いや、たとえ“たとえ”だとしてもね、できるか否かは問題です。できないこと言われてもさ。けっこう難しそうだよな、《一石二鳥》。技、いるよね。
実践しようったって、気軽に「やってみっか!」というわけにはいかないし。街なかで鳥に投石するのは度胸が必要。リスクが大きすぎ。駅前で鳥をぶち落とせるスケールの石をビュンビュン空に投げてたら、まず110番通報されます。捕まりたくない。私、子供3人いるし。
とりあえず、実際に投げるのは我慢して近所の公園で《一石二鳥》のシミュレーションをしてみましょう。
寄席の帰りに浅草寺の境内に行ってみました。空も地べたも鳩だらけ。鳩はグループでみな近い距離を保ちながら飛んでいる。これなら《一石二鳥》いけるかもしれないな。
だが現場は観光客だらけ。ここで投石すればまさにパニック。仮に鳩に当たったとしても、その鳩が血を噴きだしながら観光客の真ん中に落下したら、パニックは2乗になるでしょう。武器たる石は境内に豊富に転がっているのに残念。
そもそも、直撃すれば1羽は打ち落とせるだろうけど、2羽はどうか? 1羽目の頭頂部や羽を射ぬいて仕留めるのはまぁいい。浅草寺の鳩の数なら数打ちゃ当たるでしょう。
しかしその勢いを持続したまま2羽目に命中させねばならない。これは技というより、パワーです。コントロールより、いかに重くて速い石を投げるかのほうが大事な気がします。
《一石二鳥》するにはまず肩をつくるところから始めましょう。野球ボールを投げ込んでから、石を投げる練習かな。
石を投げる能力が備わって、場所が見つかっても、やはり時間はかかるだろう。3日4日、いやそれ以上……。アウトドア用具一式もっていかねば。
もし獲れたとして、2羽の鳥はどうしましょうか? おそらく2羽とも死んでるか重傷、飼うわけにはいかないわな。食べる? 野鳥って雑菌や寄生虫が多いらしいからちょっと怖いな。
安全な鳥はどこにいる? 養鶏場のニワトリ? あれを《一石二鳥》しちゃったら確実に窃盗か器物損壊、動物虐待の罪に問われます。第一、ニワトリは飛ばないし、地を這うようなアンダースローの投石法をまた練習しなければならない。今まで身につけた技術が水の泡だ。獲れても捌く人も探さなきゃ。鮮度のいいうちに食べたいし……。
なんかすごくめんどくさいな。何のための《一石二鳥》なの?「楽して儲ける」「一挙両得」っつーことじゃないの? 《一石二鳥》にこんな労力がかかるなら、黙って地道に一つの道をすすみたい。《濡れ手で粟》なんてそうそうないのだから……。
《濡れ手で粟》……実践するにはどういう支度すればよいのかな……。秋の夜が長すぎて、こんなコトばかり考えてます。
※週刊朝日 2016年11月4日号