◆贈り物(2)


 15年4月のパラオ慰霊の旅。両陛下が現地で暮らす日本人や日系人と懇談する場面があり、そこで美智子さまに同行する女官長が和三盆を用意し、こう述べた。「日本の味を懐かしむ方もいらっしゃるでしょう。皇后さまのお心遣いです」

 先の山下氏は、美智子さまを「卓越したプロデュース能力をお持ち」と見る。

「皇后陛下は、どの言葉を選び、どのように伝えれば、ご自身の気持ちが相手に届くか、を察する能力に優れた方です。そのご様子は、皇太子妃時代から変わることはありません」

◆花に託すメッセージ(1)
 言葉以外にも、様々な形で思いを伝えるのが美智子さま流である。

 先日、両陛下が岩手県大槌町を訪れ、対面したハマギクのエピソードを記憶する読者も多いだろう。美智子さまは、97年に大槌町を訪問した際に贈られたハマギクを皇居で大切に育てている。そして東日本大震災発生から7カ月が過ぎた11年10月、美智子さまはハマギクを背景に誕生日に際しての写真を撮影した。花言葉は「逆境に立ち向かう」。この写真は「両陛下からのメッセージ」として被災した人々を勇気づけた。

◆花に託すメッセージ(2)
 被災地と皇居を結ぶ花のメッセージといえば、95年1月の阪神・淡路大震災から2週間後、両陛下が焼け落ちた神戸市長田区の菅原市場跡を訪れた際、皇后さまは、がれきにそっと17本のスイセンの花束を供えた。

「皇居の庭で皇后さまが自ら摘み取ったものでした。このスイセンは加工され、神戸布引ハーブ園で今も保存されています」(前出・皇室ジャーナリスト)

 実直なまでに真面目に物事を捉え、プロデュース能力に優れた美智子さまが、陛下をお側で支える。こうした平成流の皇室像が人々の共感を得るまでには年月を要した。

 生前退位によって近く誕生するであろう新天皇、皇后も、両陛下の姿を見つめながら、新しい皇室像を示してくれるのだろう。

週刊朝日2016年11月4日号