「7月のNHKの報道直後から、官邸は宮内庁内で情報をリークした“犯人”捜しをしていた。官邸としても幹部に詰め腹を切らせなければ気が済まなかったのだろう」(宮内庁関係者)

 一方、官邸筋はこう主張する。

「宮内庁から官邸に情報が入ってこない。パイプ役として、両氏が役割を果たしていないことに官邸は腹を立てた。両氏の交代は明らかな更迭人事です」

 代わって、次期長官へのルートである宮内庁次長に就任したのは元警視総監で、同じ警察官僚出身の杉田官房副長官の片腕とされる西村泰彦氏。宮務主管の加地隆治氏も元警察官僚で、「オセロの石をひっくり返すように、宮内庁幹部ポストが官邸色に染まりつつある」(宮内庁関係者)という状況だ。

 こうした中、官邸は11月に専門家からのヒアリングが始まる有識者会議で、その人選などの主導権を握るとみられている。宮内庁という外堀を埋められ、天皇陛下の「願い」はかなえられるのか。8月8日、天皇陛下は以下のように「お気持ち」を述べている。

〈これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私の気持ちをお話しいたしました〉

 ジャーナリストの田原総一朗氏がこう解説する。

「天皇が特例法ではなく、皇室典範の改正を望んでいることは明らかで、政府も真剣に取り組むべきです。ただ、その議論を始めると女性天皇や女系天皇の容認の議論もせざるを得なくなり、収拾がつかなくなる。政府としては今回は特例法とし、皇室典範改正はいずれ検討するという『二段構え』にするつもりではないか。皇室典範改正のほうは『いずれ』と言っているうちに結局うやむやにされてしまう可能性もあります」

 こうした安倍政権の方針に対し、自民党の村上誠一郎元行革相は疑問を呈する。

「陛下も恒久法を望んでいるのだから、そのお気持ちを強く受け止めるべきだ。次の天皇もご高齢で即位されることになるわけで、これは構造的な問題でもある。やはり法体系として妥当かを議論して、きちんと制度を作るのが政治の役割ではないか」
 そもそも安倍自民党が目指している天皇像と、天皇陛下が「お言葉」で定義した象徴天皇像とは方向性が食い違っているという。

 首相側近がこう語る。

「首相は自民党の憲法改正草案にある『天皇は日本国の元首』という条文の実現に取り組みたいと考えている。在任中、憲法改正を成し遂げることこそが宿願なのです」

 皇后さまも「衝撃は大きなものでした」という生前退位。象徴天皇としての人生を全うしようという天皇陛下の宿願が実現する日はくるのだろうか。(本誌・村上新太郎、永井貴子、小泉耕平)

週刊朝日  2016年11月4日号