「安倍首相は全く寝耳に水のようだった。祝勝ムードから一転、会合は生前退位の話題で持ちきりになった」(出席した党職員)

 官邸筋によると、天皇陛下の「生前退位」の意向が官邸サイドに伝わってきたのは「1~2年ほど前」という。昨年8月15日の全国戦没者追悼式で、天皇陛下が黙とうを待たず、マイクに向かって話を始めようとした時期に重なる。天皇陛下自身、この年の誕生日の会見でこう語っている。

「私はこの誕生日で82になります。年齢というものを感じることも多くなり、行事の時に間違えることもありました」

 こうした事情もあり、杉田和博官房副長官が音頭を取り、官邸主導で今年1月、陛下の公務の負担軽減を中心とした皇室のあり方を検討するプロジェクトチームを立ち上げたところだった。「生前退位」は議題の一つではあったが、あくまでメインテーマは、公務の負担軽減だった。

NHKのスクープは、生前退位が認められるよう、皇室典範改正に踏み込んでほしい宮内庁サイドの世論形成のためのリークだったと官邸は見ている。この一件で官邸は憤慨した」(官邸筋)

 皇室典範改正で生前退位を迫る宮内庁と、「退位は憲法上、認められない」という官邸サイドとの見解の相違が露呈したのだ。

「宮内庁はやんごとない独立王国のようなもの。アンタッチャブルだ」

 安倍首相は周囲にこう漏らしたという。

 8月8日に放送された天皇陛下の「お気持ち」をめぐっても、駆け引きがあったという。実は政府と宮内庁との間で、原案のやり取りを何度も繰り返していたというのだ。

 当初、宮内庁側から出てきた陛下の「お言葉」は、放送されたものより、もう少し踏み込んだ内容だった。それを、官邸側が繰り返し押し返したが、宮内庁側も頑として譲らない部分があったというのだ。背景にはもちろん、天皇陛下の強い意向があったと考えられる。

「例えば摂政を置く案について『天皇が十分にその立場に求められる務めを果たせぬまま、生涯の終わりに至るまで天皇であり続けることに変わりはありません』と事実上、否定された部分などは、官邸の意向でも削れなかったということです」(政府関係者)

 その後、官邸は“アンタッチャブル”だった宮内庁人事にメスを入れた。9月15日、70歳の誕生日を迎えた風岡典之宮内庁長官を退任させ、後任に山本信一郎次長を昇格させた。風岡氏は五輪招致の際に高円宮妃久子さまにスピーチをさせたことを「苦渋の決断」と表現し、皇室の政治利用への懸念を示すなど、安倍官邸との確執が指摘されていた。さらに、宮家のお世話をする責任者である西ケ廣渉・宮務主管を退任させる人事も断行したのだ。

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