作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回北原氏は、男友だちが連れ添ってキャバクラや風俗に行くことをテーマに筆をとった。

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 終電間際の山手線で、酔っ払った若い男たち(20代後半くらい)が乗ってきた。大きな声で「○◯ちゃん、かわいいな~」「お前等も、もっと遊べよ~」、ギャハハ~!というノリから、キャバクラ帰りか、または風俗帰りか、とにかくみんなで揃って「女の人のいる」場所に行ったのだということが伝わってきた。

 また別の日、出張先でフェリーに乗っている時に、ほぼ満席の船内で、ビールを飲みながら大声で話している集団がいた。「◯◯ちゃん指名する?」「おっぱいがいい」「今晩はみんなでエッチなところ、行きましょうっ!」。どうやらみんなでデリヘルを呼ぶ相談をしている。世代は30代から40代で、会社の慰安旅行のようだ。船内販売の女性がくると「お姉さんお姉さん」とはしゃいだり「お姉さん、コイツに話しかけちゃダメだよ、妊娠するよ」とからかって盛り上がっていた。

 また別の日、知人の女子学生と話している時、「同級生の男子がキャバクラに行っている」という話になった。え? 大学生が?と心から驚いたのだけれど、そう珍しいことではないという。それも一人で行くのではなく、男友だちと連れ添って「遊びに行く」ものなのだとか。「お金かかるじゃん!」と聞けば「安いキャバクラもあるし、アルバイトしてるから、お金は持ってるし」とのこと。

 男たちが連れ添ってキャバクラや風俗に行くなんて、昭和のオジサンたちの文化で、次第に廃れていくものだと思っていた。ところが最近、続けて出会うのは、公共の乗り物で酔っ払って買春の話をする若い男集団や、大学でキャバクラ通いを語る男子大学生の話だ。

 だいたい鉄道や船の中で、「おっぱい」「エッチ」「妊娠」なんて言葉を楽しそうな笑い声と共に大声で放つなんてこと、近年、オジサンだってなかなかしない(ですよね?)。こういうのを、性の解放というのだろうか。こういうのを、自由というのだろうか。

 
 男性の買春について批判的なことを言うと、たいてい「合法だ」「男性の需要と女性の供給が合っているだけ」みたいなことを言われる。つまりは法律と経済の話をされるか、または「女性は自由意思でやっているんだ」と女性の意思の問題として語られる。また最近は「女性の貧困の深刻さをご存知ですか。福祉は彼女たちを支えきれない。風俗がなくなったら、そういう女性たちはどうなるんでしょう」と買春を慈善事業のように言いたがる人もいるし、「買春を否定することは売春を否定することですよ。あなたは売春する女性を差別している」みたいな、難しいことを言われてしまう始末。困った。いつまでたっても、男自身の問題には、たどりつかない。すべて、経済や法律や人のせいだ。

 日本の買春は、その「言い訳」も含めて、私にはマッチョな男文化に見える。ペニスでつながる男文化を、この国の男たちは、いつまで固守したがるのか、なぜ守りたがるのか。女の体を語りはするが、自分の性を語らない男たち自身に本気で考えてほしい。

週刊朝日 2016年11月4日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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