時代の急激な変化を感じさせるのは、ソフト面よりもむしろハード面である。携帯電話やパソコンはどんどん進化し、時代の遺物を次々に排出していく。とはいえ、監督の作品が色あせない理由は、“前の時代の価値観を否定しない時代”に生きているからだけではない。「今の時代に合ったテーマを」あるいは「ヒット作を」などと、時代や大衆におもねることはせず、作品作りの際は、あくまで自分の“初期衝動”だけにフォーカスする。その純粋さこそが、何より普遍的なのではないだろうか。

「でもそのせいで、新作作るのに必死で、“資金どうしよう”とか、毎日余裕がない生き方をしていますけど(苦笑)。ただ僕自身、自分の映画は、アート映画でも、エンターテインメント映画でもないと思っていて……。“面白い”と思えるテーマが見つかったら、それを人に伝える手段は、映画じゃなくても構わない。音楽や小説でもいいんです。人の感情の境界で起こる“何か”を掘り下げること。それだけが僕の目標です」

週刊朝日  2016年10月28日号