「御用達看板の争奪により入札金額が極端に下がり、弊社が自社に求める高品質での銀製品を納めることが難しい状況になった。現在は、両陛下や皇族方からご要望を頂いて製品を納めたり、過去に納めた銀製品の修復を承っています」

 皇室といえば、両家のシンボルを細工に施した銀のボンボニエール。明治の中ごろから慶事の引き出物として配られている。日清、日露戦争の特需で、それまで皇室や華族のものだった銀製品は裕福な家庭にも広まった。ボンボニエールの流行とともに、職人は競い合うように技巧を凝らした銀製品をつくった。

 だが、いまや1本1万円近い銀製のフォークやナイフ、2万~3万円の手鏡を購入する家庭は限られる。

「弊社の売り上げにおいて、銀食器や手鏡、工芸品などを置く銀座のギャラリー部門が占める割合は全体の2割以下です。大半は、全国のゴルフ場やプロゴルフトーナメントで贈られる銀のトロフィーの製作です。それでもギャラリーを構えるのは、東京の銀職人の仕事と伝統技術を知っていただきたいという思いからです」(担当者)

 銀座きものギャラリー泰三の店主・高橋泰三さんは、先代から皇室へ着物を納めてきた。本店を構える京都で京友禅を中心に染めの着物づくりに携わる。

 だが、伝統技術の粋を極めた着物の需要は激減。いまや染めの着物の半数は、インクジェットによるプリンター生産だという。

 職人不足も深刻だ。工程が多岐にわたる染めの着物は、分業制で成り立つ。絞り染めの職人の原田眞さん(81)はこう語る。

「技法のひとつに桶染めがあります。バブルのころは京都に60人ほどいた桶染め職人も、いまや10人に満たない。染め道具の桶を作る桶屋も廃業し、新しいものは手に入りません」

 子供は家業を継がず、2人いた弟子も、生活ができない、と辞めた。

 高橋さんがこう嘆く。

「櫛(くし)の歯が欠けるように、職人が辞めていく。今の水準を保つ着物ができるのもあと数年です」

 ものづくり文化にも影を落としている。

週刊朝日  2016年10月28日号