伝統や技へのこだわりが込められた名品は消えゆくのだろうか…(※イメージ)
伝統や技へのこだわりが込められた名品は消えゆくのだろうか…(※イメージ)

「宮内庁御用達」の商品を見かける機会は少なくない。高品質や社会的な信用の大きさを保証され、さぞ安泰と思いきや、デフレが続くこの国で人々が求めるのは安さであり、若い世代を中心に、御用達の認知度は低下している。伝統や技へのこだわりが込められた名品は消えゆくのだろうか──。

 この春、「宮内庁御用達」で知られる福井県敦賀市のかまぼこメーカー、小牧が、中古車のオークション販売を手掛ける関西の企業に事業譲渡された。

 小牧は、1932(昭和7)年に創業。69(昭和44)年から宮内庁に高級かまぼこを納めてきた名店である。15億円の負債を抱え民事再生法の適用を申請する窮地に陥ったが、間一髪救われる形となった。宮内庁への納品は停止しているが、店も工場も稼働を続けている。

 負債の原因はどこにあったのか。譲渡先のGLION(ジーライオン)の担当者は、意外な理由を口にした。

「売り上げを支えてきた観光バスのお客さんも減りましたが、一番の要因は、宮内庁御用達の金看板が通用しなくなったことです」

 30~40代のファミリー層は「御用達」すら知らない人も多い。むしろ、「○○大臣賞受賞」「モンドセレクション受賞」のほうが喜ばれるというのだ。

 菊の御印を頂く宮内庁御用達。その起源は明治にさかのぼる。当初は宮内省に出入りする業者は自由に名乗ったが、1891(明治24)年から、「宮内省用達称標出願人取扱順序」に基づく審査を経た業者だけが名乗ることを許された。

 戦後の1954(昭和29)年に、商業活動の民主化の流れに伴い、御用達制度は廃止された。いま目にする「御用達」の看板は、かつて縁があったり現在も宮内庁に出入りする業者が、独自の判断で掲げている。

 だが、近年、ひと知れず廃業に追い込まれる「御用達」企業や職人が増えている。時間と手間をかけ、高い品質と確かなものを手がけようとする匠たちの信念と技術が、大量生産や市場のニーズから振り落とされているからだ。

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