作家・室井佑月氏は、タックスヘイブンのニュースをきっかけに、資産家や大企業に対して道徳心を持つべきだという。

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なんだか真面目に生きるのがイヤになってきた今日この頃。

NHKを見ていたら、ふいにこんなニュースが流れてきた(10月7日)。

〈「パナマ文書」の公表などをきっかけに、租税回避地=タックスヘイブンを利用した課税逃れが世界的な問題となる中、国連機関の専門家グループは、タックスヘイブンにある個人資産が最大で2500兆円に上るとする推計を発表しました〉

個人資産だけで最大2500兆円! 企業を入れたら、なんぼ? 頭がクラクラしてくる。

金持ちは金に汚いのぉ。タックスヘイブンを利用している金持ちが適切に税金を支払ったら、世界中の問題はどれだけ解決するんだろ。飢えに苦しんでいる人たちは、何人くらい救われるんだ?

ニュースではこうもいっていた。

〈年間に各国で合わせて数十兆円規模の税収が失われているとしています〉

てことは、この国の問題だってすぐに解決されるわな。増えつづける社会保障費、子どもの貧困や、教育の格差なども。

今の金持ちの厭らしいところは、金を持っていることが偉いと思っているところだ。いや、それもすごいことなのかもしれないが、ため込んだ金をその他大勢のためにもう少し吐き出せば、素直に尊敬してやる、というのだ。

これはあたしの持論であるが、金持ちは金のない人より道徳心を持つべきだ。だって結局、金持ちの金は、その他大勢から上手く巻き上げた金じゃんか。なら、少しでもその他大勢に還元したい、そういう気持ちがあってもいい。

が、金持ちはそんなことしない。デカい企業ほど税金を適正に払わず、金持ちほど法スレスレの節税ができるようになっている。適正に税金を払うくらいなら、政治家に献金をしたほうが安くついたりするんだろうか。だから、租税回避防止の法整備はなかなか進まないんだろうか。

それは政治家も、なんで政治家になったんですか、って話なんだけどな。彼らは我々より強い道徳心を持っていなきゃいけない、当たり前でしょう?

 
知ってる? 国会議員は白紙領収書に手書きしてもいいんだって。それって、みんなやってることだって、自民党の稲田朋美先生がいってたよ。

あたしは自分の事務所の個人経営者であるが、金額や日付を自分で書いた領収書を税理士に提出したら、確実に「こんなの認められるわけないでしょう!」と怒られるわな。

なんで、弱小の個人経営者のあたしが駄目で、先生と呼ばれる国会議員はOKなのさ?

ひょっとして、うちの税理士とあたしが心配性すぎたってオチか? なら、すぐに白紙領収書をバシバシ使わないといけませんね。税務署に叱られたら、こう答えますか。

「国会議員の先生たちからやり方を教わりました」と。

週刊朝日 2016年10月28日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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