「たとえ弱くても筋肉の動きがあることが筋電図で確認できれば、HANDS療法を受けられます。医師が状態を綿密に評価し、さらに患者から、仕事や日常生活の中でどのように手を動かしたいかを詳しく聞きます。これを反映して、個別の患者に合ったトレーニングプログラムを作成します」(藤原医師)

 個々のニーズに合わせたプログラムなので、患者はその装置をつけて自然に手を動かす機会が増える。トレーニングを重ねることで、運動機能は向上し、痙縮の程度は少しずつ軽くなる。3~4週間後には装置なしでも、ある程度は手指が動かせるようになる。多くの患者が治療終了後もその状態を保っている。

 田川さんはHANDS療法後、痙縮がある右手でほうきを使って掃除をしたり、タオルでからだを拭いたり、ドアを開けたりなどの日常の動作ができるようになった。さらに右手で食材を支えることが可能になった。

 藤原医師によると、HANDS療法では、脳卒中の障害が同程度の患者で、発症から半年後の人と3年以上経過した人の治療効果を比べたとき、手の機能の回復の程度はほぼ同じだった。つまり慢性期の患者にも機能回復の可能性があるのだ。

 ただし、この治療によって麻痺がなくなったり、手の動きが完全に元通りになったりするわけではない。また、この治療は足の麻痺には適応がない。

 HANDS療法を受けるにはいくつかの条件がある。脳卒中を発症して6カ月以上経過していること、手の筋肉がわずかでも動くこと、ひとりで歩行ができること(杖の使用は可)、腕が胸の高さくらいまで上げられること、患者が自主的に手を動かすこと、などだ。

 なお、体内に心臓ペースメーカーが入っている場合や、重い心疾患、肝・腎機能障害のある場合などは対象外となる。

週刊朝日 2016年10月28日号より抜粋