落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「説明責任」。
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「何か言われたら、とりあえず『ハイ』と返事」
「絶対に言い訳はするな」
噺家になってから師匠に言われたコトのいくつか。
噺家は上下関係が厳しい。入門すると上の人から用を言いつけられたり、小言を言われたりの毎日。その時に「あの、それは……」などの言い訳は御法度。
とにかく「はい!」か「申し訳ありませんっ!!」のどちらか。
「ペコペコしてないでなにか言いなさいっ!!」
と怒る人もいるが、その気になってなんか言うと、
「つべこべ言うなっ!!」
という結果になりがち。どうしろというのか?
はじめは「なんて理不尽な」と思った。入門する前は「厳しい世界だ」「食えないぞ」とばかり言われたが、こんな社会だなんて具体的な説明は一切なし。入ってから理不尽さを理解していく。最初はしんどい。
でもしばらくすると、これがお互いにとって楽なことに気づいていく。細かいコトはさておき、基本的にお互い思考停止でよいのだから、楽なのだ。
「察しろよ。俺はお前より上。偉いのだ」
「はい、さいでござんす!」
だから口では謝っていても、腹の中では舌を出してることも多い。私はしょっちゅうだ。
そんな調子なので、自分が怒る立場になると、「こいつは反省してるな」とか「この野郎、まるでこたえてないな」とか判別がつくようになる。
反省してないヤツに限って、言い訳をさせると急に能弁になって、「実はですねーっ!!」とまくし立ててくる。だから、
「うるさい、お前の意見なぞどーでもいいっ!」
と言いたくなるのだ。上の人の気持ちがよくわかった。
「自分が悪いんです!」とひたすらに平身低頭。これに限る。
落語の登場人物たちも同様だ。貧乏長屋の住人は、滞った店賃を大家にとがめられても、
「頭を下げておきゃ、小言は上をツーッと通らぁ」
とうそぶいてペコペコする。大家も一度怒ってそれっきり。
大家「しょうがねぇ野郎だ! 今回だけだぞ!」
てなかんじだ。その後、説明を求める大家はあまりいない。
大家「店賃を払えないことはわかったが、そのような状況に陥った経緯、反省点、現時点での状況打開策、支払期日、返済方法……など詳細に、こちらが納得いくように説明しなさい」
面倒くさい大家だな。店子も、
「じゃ、この長屋の店賃はなぜ○円に設定されてるのか? 間取り、立地、アフターケアが○円に本当に見合ってるのか説明せよ。払うのはそれからだ!!」
私が大家ならこんなヤツに絶対貸さないよ。“説明責任”なんてしゃらくさい。
「いやなら、よしゃぁがれっ!」で済んじゃう世界はいいなぁ。
「あなたの落語独演会の入場料は本当に見合った額なのか? その対価として満足度が足りない場合、今後どのような対応をして、あなた自身どのように身を処するか……」
そんな団体に囲まれて問いつめられる夢みそうだわ。来なくていいです。そんな人たちなら。
※週刊朝日 2016年10月28日号