ノラが母親の体内にいたとき、ノラの母はどんな音楽を聴いていたか知っているか、とムチャぶりをしてみた。

「そんなことはわからないわ。母に訊いて(笑)」

 ではあなたが妊娠中にどんな音楽を聴いていたか、また妊娠中に聴く音楽が胎児に影響を与えることを意識したか。

「う~~ん、それほど考えたことはないわねえ。私は意識していなかったけど、夫は少し考えていたみたい。でも、結局、普通にいつもと同じように、いい音楽を自分も聴き、夫も聴いていた。それが胎児にどのような影響を与えたのか、与えるかは見当がつかないわ(笑)。ただこのアルバム(『デイ・ブレイクス』)を作っているときは妊娠していたので、ベイビーがそれを覚えていてくれたらいいとは思うけど、わからないわ。私自身が好きなグッド・ミュージックを聴くということね」

 胎児が、あなたが聴いていた音楽に反応して体内から蹴ったりはしなかった?

「う~~ん、特にそういうことはなかった。というより、気づかなかったわね」

 では最近はどのような音楽を?

「そうね、いろいろなんでも聴いてるけど、そう、ジミ・ヘンドリックス(1960年代に注目されたブラックのロック・ギタリスト)を聴いてる。素晴らしい」

 ノラの音楽とは全く正反対とも言えそうなジミの曲を将来カヴァーすることは?

「絶対あり得ない(笑)」

 ノラと言えば、映画「マイ・ブルーベリー・ナイツ」(07年)への出演が日本でも話題になった。

 また映画に出ることは?

「今すぐは特にないわね。今は音楽に専念している時期だし。映画をやらないということではないけれど、映画界で活躍しようという野心はないの。今は音楽をやることでとてもハッピー。音楽が忙しすぎるので。『マイ〜』はとても貴重な経験だった。本当に真剣に取り組んだし、スタッフはみな尊敬している。もちろん、いい話があれば聞くわ。もしやるとすれば、何か(笑えるような)面白いものかしら」

 ノラは02年のデビュー作が多くのグラミー賞を獲得したことによって、その後、巨大なプレッシャーを感じ、自分を見失いそうになったという。果たしてそれをどのように克服したのか。

「結局、時間が解決したのだと思う。そして、自分がやるべきことを淡々とやって、自分の進むべき道を進む。それしかなかったと思うわ」

 ノラ・ジョーンズは8月10日から全米で「デイ・ブレイクス・ツアー」を始めており、17年4月にはそのツアーで再来日する。そのときは、またまたノラ・センセーションが巻き起こりそうだ。(音楽評論家 吉岡正晴)

週刊朝日 2016年10月21日号