2週間で完売した幻のブロマイド
2週間で完売した幻のブロマイド

「優勝の知らせを聞いた夜は、うれしくて眠れませんでした。若い人がいるのに、わたしなんかがねえ」

 謙遜しながらも声を弾ませるのは、「タマ泣き美人コンテスト」で優勝した、濱口文子さん。76歳だ。

 コンテストは9月から1カ月間、淡路島(兵庫県)の特産であるタマネギをPRするため、南あわじ市の第三セクター、うずのくに南あわじの主催で開催された。1位の濱口さんは、2位の美人公務員(32)のトリプルスコアに迫る勢いで、3万1922票を獲得。堂々たる優勝だった。

 担当者が説明する。

「全国の応募者から選ばれた6名が、タマネギを刻んで流す泣き顔の美しさを競うものです。小学生から高校、大学生、20代の公務員など6名の美女たちの泣き顔の動画をホームページにアップし、ネット投票と現地投票で集計しました」

 初開催で知名度はゼロ。規模も小さく地味なコンテストになると思われたが、ホームページの出来の良さとユニークな内容から瞬く間に話題に。特に注目を集めたのは、職業は農業で「何十年も前からタマネギを作って来ました」と自己紹介した濱口さんの存在だ。

 中盤から濱口さんへの得票数が急激に伸び、1位に躍進。投票者が書いたコメントは、「タマネギ農家さんを応援したい」と誠実な内容ばかりだった。

 濱口さんは農家に生まれ、12歳の頃からタマネギ作りの手伝いをしてきた。嫁ぎ先も農家。だが、30歳の時に夫が急逝し、濱口さんは、タマネギや白菜、コメを作りながら女手ひとつで息子と娘を育てあげた。コンテストの応募は、友人の勧めだったと濱口さんはいう。

「家族にはナイショでしたが、ネットで応募を知った孫が電話をくれて、周りに声をかけて応援するよ、と。それから票が伸びだしたのです」(濱口さん)

 島内の道の駅などではオニオンチップスを購入すると、投票権と候補者のブロマイドが付いてきた。各候補210枚ずつ刷ったが、濱口さんだけが完売した。

「半数ほど残った候補者もいるので、人気の高さがうかがえます」(担当者)

 濱口さんが、コンテストの思い出を振り返る。

「撮影のときに用意されたのは、水分を含んだ新タマネギではありませんから、刻んでも涙が出なくて。女優さんみたいに、目薬を使いました(笑)」

 濱口さんの泣き顔は、来春の新タマネギのパッケージに使われる。

週刊朝日 2016年10月21日号