大隅良典さんと妻の万里子さん (c)朝日新聞社
大隅良典さんと妻の万里子さん (c)朝日新聞社

「図らずもノーベル賞(医学生理学賞)を頂いて、異次元の生活を強いられてしまっています」

 大隅良典・東京工業大栄誉教授(71)は10月7日に学内で開かれた講演会でこうこぼし、会場に集まった約300人の笑いを誘った。

 研究に明け暮れる日常生活では時間に縛られることを嫌っていた。予定がぎっしりと詰まった今は、さぞや窮屈に違いない。研究室の岩間亮さん(29)は「先生は出張で新幹線に乗るときも、指定席より自由席を好むそうです」と話す。

 人のつながりを大切にすることで知られ、コミュニケーションの潤滑油としているのがお酒だ。

 神奈川県大磯町の自宅に教え子を招き、宴会を催すことも。出席者によると、部屋には日本酒、焼酎、ウイスキーなどの瓶がずらりと並ぶ。ビールやウイスキーを好んで飲むという。

「飲んだときの話題は、研究からたわいのない話まで何でも。皆が楽しく飲むのを見るのが好きみたいです。先生は飲むと冗舌ですが、決して酔いつぶれません」(研究室の及川優さん)

 日によっては午後6時ごろから、研究室や教授室の休憩スペースが“居酒屋”になる。「今から飲もうか」。大隅さんのこんな気さくな一言で、宴は始まる。

 宴会では初めて参加する人らへ積極的に声をかけ、自らお酒をついでまわる。研究室への配属時もお酒の話題になるそうで、今年入った男性はこう振り返る。

「研究室のセミナーで発表した後、大隅先生と二人で研究のことなどを話しました。君は酒が好きですかと聞かれ、ビールを出してくれました」

 酒好きかどうかで配属が決まるわけではないが、おおらかな人柄のエピソードとして学内では伝わる。女性や酒の苦手な人には無理強いせず、細やかな気配りで慕われているようだ。

 そんな姿を映すように、研究室には一体の愛敬ある人形がある。顕微鏡を手に、大隅さんが微笑む姿。昨年6月に開かれた「ガードナー国際賞」受賞の記念祝賀会で、教え子らがプレゼントした品という。

 昨年12月にあった「国際生物学賞」の授賞式では、こう述べている。

〈いうまでもなく現代生物学は一人で進められるものではありません。私のこれまでの仕事も、30年近くに亘る沢山の素晴らしい研究仲間のたゆまぬ努力の賜物でもあります〉(日本学術振興会の授賞式記録)

 研究仲間を愛するがゆえのお酒好きに違いない。

週刊朝日 2016年10月21日号