春風亭一之輔が「完全に病んでいる」と思ったこと
連載「ああ、それ私よく知ってます。」
などと曇った顔でダメ出ししてたのに、順番が回ってくると、
「超絶ヤバかったですっ!」
と二人で手足をばたつかせていた。なんだ、そりゃ。そんなバカ女のお世辞に喜んで、
「打ち上げおいでよー」
なんてニヤついているあんたもあんただよっ。そんなんだから、芝居もつまらないんだよ。あんなもんで6千円もとりやがって! いや、俺は招待だけどさっ!……と、喉元まで出たそんな言葉をのみ込んで、
「ありがとうございました」
とだけささやいて帰ってきた。
帰り道、ぼんやり考えた。
「……私の独演会で褒めて帰っていく人も信用出来ないのか」
そういえば入門したての頃、師匠や先輩に言われた。
「褒めてくる人の話は話半分に聞いておけ」「過剰な褒め言葉はワナだと思え」等々。
結果、歪んだ人間が出来上がってしまった。褒めるのは苦手だが、褒められるのもうがってしまう。持ち上げるのも、上げられるのも決まりが悪い。
終演後の挨拶は、
「今日はいい天気でよかったね」
「ええ、お互いに」
「じゃ、また!」
くらいでちょうどいいや。
※週刊朝日 2016年10月14日号
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。YouTube「春風亭一之輔チャンネル」ぜひご覧ください!アーカイブもいろいろあります
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