がん細胞を直接攻撃する従来の薬とは異なり、ヒトが備えている免疫力を手助けしてがん細胞を攻撃する。そのため「免疫チェックポイント阻害薬」とも呼ばれている。

 もう少し詳しく説明すると──がん細胞を攻撃する「細胞傷害性T細胞」(以下、T細胞)の表面には、PD‐1というタンパク質がある。一方、がん細胞にはPD‐L1というタンパク質がある。これらが結合するとT細胞の働きが抑えられてしまう。つまり、がん細胞を攻撃する力が弱められてしまう。これを防ぐのが“抗PD‐1抗体”のニボルマブだ。先にPD‐1に結合して、PD‐1とPD‐L1が結合するのを妨げ、T細胞の働きが抑えられないようにする。

 特に扁平上皮がんには効果が高く、臨床試験ではドセタキセルに比べて延命効果があった。

 山本医師は香川さんにも効く可能性があると判断し、16年1月からニボルマブでの治療を開始した。

「効果は1カ月後には表れました。転移したがんが縮小し始め、3カ月後には2~3センチのがんは半分以下に、1センチのがんは消失しました」(同)

 代表的な副作用として、甲状腺の機能低下や糖尿病などがある。香川さんは治療中に高血糖や軽度の倦怠感が見られたが、糖尿病薬や経過観察で対処できた。その後もがんが大きくなることはなく、現在も治療を続けている。薬がよく効き、副作用も軽度だったため、香川さんは「楽に続けられる」と治療に前向きになれたという。

 山本医師は「扁平上皮がんでは免疫チェックポイント阻害薬の効果が比較的高い」と話す。IV期で治療を開始した場合、これまでの抗がん剤治療では1年~1年半で亡くなる人がほとんどだ。

「香川さんは9カ月間、がんが大きくならず効いています。この薬にはいったん効いた人に長く効くという特徴があるので、どのくらい続くのか期待しています」(同)

 ニボルマブを投与した人の2割に長期間の効果がみられ、臨床試験を含めて最長で3~4年間持続している。山本医師は、「治癒する可能性を持った薬」と期待を寄せる。

週刊朝日  2016年10月14日号より抜粋