取材陣に囲まれて会見を行う大口病院の高橋洋一院長 (c)朝日新聞社
取材陣に囲まれて会見を行う大口病院の高橋洋一院長 (c)朝日新聞社

 JR横浜線大口駅から徒歩3分。住宅街の一角にある大口病院(横浜市神奈川区)で、入院中の男性患者2人が点滴に異物を混入され、相次いで中毒死した。入院していた4階では、7月1日から9月20日まで48人の死者が出ていることも判明。捜査関係者は「被害者は二ケタ」とみている。Aさん(50代)の父親(90代)は8月末、同院の4階で死亡した。疑惑の“48人”のうちの一人だ。犠牲者の亡くなり方を知るにつれ、父親の死に疑念を抱くようになった。

 父親の死因に不信感を抱いたのは、亡くなり方が腑に落ちなかったからだ。当時の様子をこう語る。

「それまで父は、病気の影響で会話こそできなかったけれど、手を動かすなどでコミュニケーションはとれていました。寝たきりになると手足が固まってしまうので、それを予防するリハビリも受けていました」

 進行性の慢性病をわずらっていた父親は、鼻からの酸素吸入と栄養剤としての点滴を受けていた。だが、1カ月ほど前に同院に転院してきたときには会話もでき、「今年いっぱいは大丈夫だよ」と力強く話していた。その後、病気が進行して体は弱ってきたものの、意思の疎通に問題はなかった。実際、死亡する1時間ほど前にもAさんはお見舞いに行っている。その時点で、おかしな様子は見られなかったという。

 だが、父親の死はその後すぐに訪れた。

 いつもどおり見舞いを終え、自宅に戻って一息つく。そのとき、病院から電話がかかってきた。

「父の『呼吸が止まった』と……」(Aさん)

 父親と別れてから30分しかたっていなかった。病院に戻ったAさんに、主治医は「不整脈が出て、呼吸が弱くなり、止まった」と説明。そして「私もびっくりしました」と話したという。Aさんはそのひと言を今も忘れていない。

「医師が驚くほどの急変だったんだと。でも、当時はそれで納得していました」

 だが事件を知り、死因に疑念がわき始めた。同時に当時の病棟の様子がおかしかったことも思い出した。

「実は、父と同じ病室の窓際の患者さんも同じ日に亡くなっています。急変だったようで、看護師さんがあたふたとしていました。個室でも1人亡くなっていて、主人は亡くなった人を運ぶストレッチャーが父用以外に2台運ばれてきたのを見ています」(同)

 報道によると、4階では8月下旬に1日で5人、9月初めには1日で4人が死亡。Aさんの父親が亡くなった日も、少なくとも3人は死亡している。都内のある医師は疑問を呈す。

「がん以外の慢性期の病気の終末期の場合、容体が急変することは少なく、一度にそれだけの人が亡くなるのは、インフルエンザの感染など何らかの理由がないと、考えにくい」

 同院の高橋洋一院長も、「(48人は)多いという印象。院内感染を疑った」と述べている。

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