「巨額の予算を急いで成立させようとする場合、都の財務局は必ず事前に都議会に根回しをする。広尾病院の地元で選出されている都議に話をして、さらに都議会の“ドン”にもお伺いをたてる。議会への根回しは欠かせない。裏を返せば、そういった根回しがなければこんな急な予算案は成立しない。これが、都庁と都議会の権力構造です」

“ドン”とは、小池氏と天敵の関係にあり、都議会で絶大な影響力を持っていた内田茂・前自民党都連幹事長のこと。ある野党都議は言う。

「移転計画を地元の医師会に相談もせずに決めていたと知ったのは、今年の8月。こんなにずさんな計画だとは思わなかった。都議会で徹底追及したい」

 移転計画について塩崎氏に取材を申し込んだが、期限までに回答はなかった。代わって内閣府が本誌にこう釈明した。

「塩崎厚労相と舛添さんとの間にやり取りがあったのか、ハッキリはわかりません。ただ、厚労省、内閣府が移転話を都に投げかけていたことは間違いありません」
 都の病院経営本部はこう回答した。

「都は現地建て替え案は難しいと判断し、青山移転の方が優位だと考えていた。それで建築の専門家である伊藤喜三郎建築研究所に調査を依頼しました」

 当事者への説明もなく、都と議会の限られた人たちで決められた巨大プロジェクトに、疑惑の目は向けられ始めている。小池氏は9月23日の記者会見でこの問題について問われ、

「これまでの経緯(の公開)については、丁寧に説明を受けてからにしたい」

 慎重な言い回しに思えるが、本心は別にありそうだ。小池氏の側近で衆院東京10区の後継者となった若狭勝衆院議員は言う。

「小池さんは、当選直後の8月にはすでにこの問題を認識していた。徹底した情報公開で移転案までのプロセスを明らかにしていくつもりだ。そこに不合理な説明があれば、誰が、どのような理由で圧力をかけたかが、おのずと明らかになる。豊洲新市場の問題と同じく、広尾病院問題も小池都政の試金石になる」

(本誌・上田耕司、西岡千史)

週刊朝日  2016年10月7日号