「離職率は大幅に低下しています。多様な働き方を認めることが、社員の定着につながったのだと思います」(広報の杉山浩史さん)

 同社の離職率は、05年に28%と過去最高だったが、06年に最長6年の育児・介護休暇制度、07年に選択型人事制度、12年から副業を解禁し、16年現在の離職率は4%以下まで低下した。

 前出のエンファクトリーの加藤社長も「副業解禁が人材流出に直結するとは思わない」という意見だ。

「かつてサラリーマンは終身雇用で退職金も潤沢、一生一つの会社に勤めていれば安泰でした。しかし今は、どんな会社でも安心できる時代ではありません。なのに、会社が社員を囲い込もうとすれば、優秀な人ほど辞めていくと思います。社員より会社論理を優先するような会社についていく気になれないですからね」

 副業解禁は、いまや企業にとってリスクではなく、アピールポイントと言うべきかもしれない。「副業OK」で検索すると、多くの就職情報サイトの特集ページがヒットする。「求人情報に副業可と書かなければ、優秀な人材が来てくれない」という人事担当者の声も聞かれる。

 一方、懸念されるのは、ダブルワークによる長時間労働だ。仮に「時間に縛られない働き方」を選べるとしても、二つの仕事をするとなると、必然的に労働時間が長くなるのではないか?

 エンファクトリーで副業をする山崎さんは自身の体験をこう語る。

「確かに本業が忙しい時期は、副業のために睡眠時間を削ることもあります。でも、仮に『今夜7時から会社の飲み会がある』となったら、みんな必死で仕事をして、早く終わらせますよね。実はダラダラ残業していただけで、作業時間は圧縮できるものです。私は副業をすることで、時間を効率的に使えるようになりましたよ」

 同社の加藤社長も、「副業を推奨し始めたら、分社前より残業が2割減った」と話す。社員の副業は、会社にとってもメリットになっているわけだ。

 前出の柳川教授のもとに最近、副業に関する企業からの問い合わせが多く寄せられるようになった。

「副業を解禁すると、労働基準法などによる制限を受けるのではないか、と懸念する声もあります。でも、議論もせず、多様な働き方を認めないというのは労働者のためにならず、本末転倒です。労働法制は時代と共に変わるべき。いずれ年金の支給開始年齢が70歳になるかもしれない状況下で、ほとんどの人にセカンドキャリアが必要になる。その準備、訓練という意味でも副業を認める流れになっています」(柳川教授)

(ライター・伊藤あゆみ、本誌・森下香枝)

週刊朝日 2016年10月7日号