大谷は右投げ、左打ち。身長193センチ、体重92キロ。2012年、花巻東高からドラフト1位で日本ハムに入った (c)朝日新聞社
大谷は右投げ、左打ち。身長193センチ、体重92キロ。2012年、花巻東高からドラフト1位で日本ハムに入った (c)朝日新聞社

 日本ハムが4年ぶりのパ・リーグ優勝に王手をかけている。大躍進の原動力となった「二刀流」大谷翔平の懸命のプレーから目が離せない。いずれ米大リーグへ行くであろう“日本球界の宝”。球場で見たい!

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 9月21日。勝つか負けるかで、天国か地獄になる一戦を前に、日本ハムの選手たちはヤフオクドームに入ると、自主的に集まった。ベテランの田中賢介が呼びかけ、輪ができる。天王山の一戦を前に、決意を確かめ合う。

 賢介、4番の中田、守備固めの職人・飯山、そして、昨季のキャプテンで、投手陣の精神的支柱でもある宮西が、熱い思いを言葉に込めた。その中で一人、冷静な男がいた。大谷翔平だ。宮西は振り返る。

「いつも通りでしたよ。こういう試合でも、平然としている。性格上、表に出さないですから。プレッシャーも、気合もあったと思いますけど、表に出さないのが、あいつなんで」

 たぎる闘志は右腕だけに込め、大谷は投げ込んだ。スピードが出にくいとされるヤフオクドームのマウンドでも、一回から、球速は自身最高にあと1キロと迫る163キロをたたき出した。

「相手はソフトバンクですし。自分の出せるものは、全部あそこに置いてこようと思っていた」

 マウンドのプレートから、本塁までの距離は、18.44メートル。このわずかな空間に、大谷は自分の持っている能力のすべてを込めた。剛球はもちろん、鋭く落ちるフォークに、打者の手元で消えるように曲がるスライダー、そして、タイミングを外す、緩いカーブ。

「僕は、優勝したことがない。何とか優勝したい。みんなと一緒に喜びたい」

 今、持っている能力のすべてをさらけ出し、8回1失点。かつて、ダルビッシュが背負った11番を受け継ぐ者として、エースの責任を果たしきった。

 大谷翔平は2人いる。投手の大谷と、打者の大谷だ。

「(投手で)抑えたからといって、それがバッティングに影響することもないですし、打ったからといって、ピッチングに影響することもないです」

 互いの好不調にとらわれず、結果を残すためだ。

 今季、まず周囲を驚かせたのは打者・大谷だった。3月29日、本拠・札幌での開幕試合となったオリックス戦では、今季1号の3ランを含む、3打数2安打5打点を挙げた。5月4日から17日にかけては、5試合連続本塁打。球団では1981年に「サモアの怪人」と呼ばれたソレイタ以来の記録を打ち立てた。

「体の出力を上げたい」とオフから体を大きくしてきた成果が、まず打球を飛ばす面で効果を表した。一方で投手はといえば、この出力を増した体を、序盤は少々もてあましていた。開幕戦では、立ち上がりにいきなり3失点で負け投手。抑えても打線の援護がないこともあり、初勝利は5月1日までずれ込んだ。

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