西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、リーグ優勝を決めた広島東洋カープについて、早すぎた優勝ゆえに試練が待ち受けていると指摘する。

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 広島が25年ぶりにリーグ優勝を果たした。25年は長いよ。球団創設の1949年から初優勝した75年まで26年かかったのと、ほぼ同じだ。広島市民、そしてファンはずっと待っていただろう。9月10日に優勝を決めた巨人戦(東京ドーム)を中継したNHKの広島地区の平均視聴率は60.3%。この数字が象徴しているよね。

 6月の西武戦(マツダスタジアム)で解説した際、鈴木誠也の打撃に「こんな選手がいるんだ」と、とにかく驚いた。内角のさばきがうまいし、直球でも変化球でもしっかりとスイングできる。自分の形でバットを振れているのは、膝に柔軟性があるからだ。2年連続のトリプルスリーをほぼ手中にしているヤクルトの山田哲人クラスの可能性を感じたよね。その直後のオリックス戦(同)で3試合連続の決勝弾を放ったが、もう驚きはしなかったよ。

 それにしても、広島がこれほど急に強くなったのには驚いた。最近5年を見ても、最高順位の3位が2度あっただけ。何年かかけてじっくり力をつけてきたという印象はない。もともと力のあった菊池、丸が昨年の秋季キャンプから本来の打撃を取り戻し、鈴木のように一気にブレークする選手も出たが、「個の力」だけでは説明はつかない。

 今年の強さには「チームの力」を感じる。山田や筒香(DeNA)のような選手はいないが、先発9人と控え選手らが一体となって戦っていた。例えば、チーム盗塁数は100個をゆうに超えているが、ただ走るだけでなく、一つひとつに意味があった。走るべき場面、走るべきカウント、相手投手への揺さぶりという点で効果的だった。

 打撃面でも、例えば、優勝を決めた試合では巨人の先発マイコラスの出来がよかったが、ファウルで粘って球数を投げさせた。三回までに74球を投げさせ、隙を作った。四回に鈴木、松山の連続アーチで逆転したが、打者それぞれの目に見えない役割がボディーブローのように効いた。本当の強さを身につけたのだと感じた。

 
 黒田、新井という投打のベテランの意識が高く、日々、若い選手に背中を見せてきた。黒田には日米200勝、新井には2千本安打の大記録があった。周囲が「2人のために頑張ろう」という雰囲気を自然につくれた点も大きかった。

 これだけ早く優勝が決まると、クライマックスシリーズで広島が登場するファイナルステージ(10月12日から)までの調整が難しい。ファーストステージを勝ち抜き、実戦感覚も研ぎ澄まされ、勢いをもって上がってくるチームに対して、1勝のアドバンテージがあるとはいえ、厳しい戦いを強いられる。

 投手陣には心配していない。問題は打者。宮崎の「フェニックス・リーグ」などで調整することになるが、1軍の本当に生きた球を打つ機会はない。

 緒方監督も「今まで追うことしか知らなかったが、追われる立場としてずっと戦えた。この経験の中で勝ちきって、日本一を勝ち取りたい」と話したが、選手は気持ちの盛り上げ方も含め、この1カ月の過ごし方をしっかり考えてほしい。いくら自然体を心がけても重圧はかかる。プレッシャーの中で何を表現できるか。挑戦者としての姿勢を忘れないで臨んでほしい。

週刊朝日  2016年9月30日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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