人付き合い力のフェースファクト(顔が出た人の趣味や特徴を当てる)や空間認識力のメンタルマップ(対象物が回転したり前後左右に動いたりした後を再現する)では高得点を取れるのだが、なぜかできない。焦れば焦るほど成績は落ちる。そういえば、朝田医師から、

「山本さんは症状が大きく改善していますが、注意力がときどき鈍ることがあるようです」

 と何度か言われたことがある。継続しなければ、力にはならない。どんなに成績が悪くても続けること。やがて効果が表れるというのが道理だ。確かに、1カ月続けると画面の動きがよく見えてきた。たまに100ミリ秒を切ることもできた。担当者によると、ダブル・ディシジョンに他のゲームを組み合わせると、効果が上がるという。

「ブレインHQ」をすることで、敏捷性は間違いなくついたと思う。しかし、ゲームに熱中して、新幹線の中で財布を落とすという大失態も演じた。ゲームばかりしていると会話や読書の時間が減る。デイケアで仲間と話しながら絵を描いたり運動したりするほうが楽しいと改めて思った。デイケアの認知トレーニングではタングラム(決められた数の図形で定められた形を作るパズル)やアタマ倶楽部など十数種類の脳トレをした。

 ぼくは経験上、認知症予防には、本山輝幸さんが考案した筋トレがいちばんだと思っている。朝田医師も効果を認めている。

「本山さんの筋トレは瞑想時間もあって、筋肉の運動・感覚神経を介した脳訓練法ともいえます」

 では、筋トレをすればボケないのか。本山さんは知り合いのボディービルダーの中にも認知症になった方はいるという。筋肉はムキムキのマッチョだった。

「そういう方にかぎってジムで重いバーベルを何回も挙げるのですが、残念ながら感覚神経がつながっていなかったのでしょう」

 本山さんは「鍛える筋肉に神経を集中させてトレーニングしたほうがいい」と進言したが、重いバーベルを挙げることばかり考えていて聞こうとしなかった、と。

 筋肉と感覚神経がつながっていなければ、単なる体力作りで終わってしまう。一度つなげてしまえば、トレーニングをするごとに脳への刺激が強まって効果が高まる。そうすれば、感覚神経も太くなって、刺激も上がりやすくなる。これが本山理論だ。

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