ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏は、人気グルメサイトの“騒動”について言及する。

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 ユーザーから集められた口コミによって評価が客観的に数値化され、お店選びの手助けになる人気グルメサイト「食べログ」で、ネットを起点とする騒動が持ち上がった。ある飲食店のオーナーが、店舗を評価する点数を食べログ側が作為的に操作している疑惑がある、とツイッター上で「告発」したのだ。

 食べログは、株式会社カカクコムが2005年にユーザーの口コミによって飲食店を比較評価するサイトとして開始したものだ。当時、ネット上のグルメサイトは「ぐるなび」や「ホットペッパー」など、飲食店から毎月の利用料金を取って情報を掲載し、その見返りとして店の情報発信やネット予約機能を提供するサイトが主流だった。こうしたサイトでは、あまりおいしい店ではなくても高い利用料金を払えばサイト上で目立つようにしてくれる。

 これに対して食べログは、店舗情報の登録を利用者や食べログ側が自由に行い、利用者が店舗を点数で評価し、点数の高い順番からランキング表示できる違いを打ち出した。ぐるなびやホットペッパーが「フリーペーパー」なら、こちらはいわばネット上の「ミシュランガイド」。歯にきぬ着せぬユーザーの口コミと点数がお店選びの参考になるということから一気に普及し、現在は他のグルメサイトを抑え、訪問者数では日本一のサイトとなっている。

 ではなぜ今回のような問題が取り沙汰されたのか。それは食べログのビジネスモデルの変化が背景にある。食べログは訪問者数でこそ日本一だが、収益性では他のグルメサイトの後塵を拝している。当初は純粋な飲食店評価サイトだったが、現在はぐるなびやホットペッパーと同様の広告枠や有料の予約機能も提供しており、口コミのランキングと広告枠のランキング(食べログにアクセスした際、最初に表示される「標準」の店舗一覧)が混在して表示されるようになっている。

 
 今問われているのは、その2種類のランキングに利益相反がないかということだ。利用者の口コミのみで評価されるはずの店舗の点数が、広告や予約機能の利用状況で左右されているのではないか。そのような懸念が店舗側から噴き出し、ランキングの信頼性を損ねる事態を招いているのだ。

 カカクコムは9月7日付のプレスリリースでこれを否定したが、点数がどのように付けられるのか、詳細は開示されず、同社への疑問は晴れていない。ランキングというコンテンツで媒体力を得ているメディアは、そのランキングの公正性に疑問符が付いた瞬間、その価値が暴落する。実際に同社の株価は9月7日に年初来安値を更新。経営にも打撃を与えている。

 不正業者による「やらせ口コミ」の問題が12年に顕在化して大騒動となったことは記憶に新しいが、今回の一件もランキングの信頼性への疑義という意味では同じ構図と言える。店舗・利用者双方の信頼を取り戻すには、ランキングの集計方法の具体的な情報開示が求められる。

週刊朝日 2016年9月30日号

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津田大介

津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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