──この映画では逆説的にガン・カルチャーやドラッグの罪悪を説いていると思いますか?

「いいや、そんなメッセージはないと思う。個人的に、メッセージ性のある映画は退屈だな~って思うんだよ。僕は映画を見て、説教されたくないんだよ。映画は社会を映し出す鏡であるという考え方は、社会的な面からみれば価値のあることかもしれない。ただ映画の中で、人生について説教されることに僕は同意できないんだよ」

──演技する上で一番楽しかったシーンはどこですか?

「トニーという男は、自分に向いてない人間になりたいと感じている男なんだよ。それでとんでもない状況に追い込まれてしまう。自分で苦境を理解している男よりも、ずっと哀れな男だよ。自分が苦境に追い込まれているという自覚がないんだから。それほど悲劇的なことはないね。だから自分が好きなヒーローのふりをしている。具体的にいえば彼は映画狂だから、ハンフリー・ボガートのふりをしているんだよ。現実にはつまらないチンピラ、犯罪者さ。そこがこの役の神髄だと思う。ポールが、僕がこの役を映画狂として演じることを許してくれて、後半妄想にふけるシーンなんかも入れてもらえたのは嬉しかったな。演じがいがあったよ」

──逆に役作りで苦労した部分はどこですか?

「大変だったのは、セリフのテンポだね。仲間3人で話すシーンには、流れ、リズムが必要だと思ったんだ。だから3人の会話の撮影をした日が最も大変な日だったよ。日本のファンにもぜひ、見てほしいな」(ライター・高野裕子)

週刊朝日 2016年9月23日号