六回、マウンドの黒田(左)に駆け寄る一塁手新井=9月10日、東京ドーム (c)朝日新聞社
六回、マウンドの黒田(左)に駆け寄る一塁手新井=9月10日、東京ドーム (c)朝日新聞社

 広島東洋カープが25年ぶり7回目の優勝を決めた。胴上げの直前、マウンドに集まった選手の中心にいた新井貴浩と黒田博樹は固く抱き合い、男泣きに泣いた。2千本安打と日米通算200勝を達成した2人。MVP候補にも名が挙がる“新井さん”は、この日5タコに倒れ、同じ回数だけ宙に舞った。

 9月10日、東京ドームのスタンドは、優勝までのマジックを1とした広島東洋カープのファンで、真っ赤に揺れていた。先発は黒田博樹。そして一塁を守るのは新井貴浩。古巣への復帰という点では共通する2人だが、新井への愛にあふれた大きな声援は、厳しい視線にさらされていた復帰当時が、うそのようだ。

「カープを愛しているから、なんて言いながら阪神に移籍した当時は、何言ってんだと思っていましたが、本当に愛していたから戻ってきてくれたんでしょうね。阪神での7年間は、39歳にしてキャリアハイを迎えるためのレンタル期間だったのでしょう」

 東京生まれながら熱烈なカープファンのバーテンダーの男性(38)がしみじみと語った。

「カムバックすると、周囲からの罵声や冷ややかな視線もある。だが、それを乗り越えたから非才で不器用とも言える彼が、39歳になって初めて到達した“境地”があるんですね。人の経験というのはお金に変えられない大きな価値を持つんですよ」

 そう話すのは、『主砲論 なぜ新井を応援するのか』(徳間書店)の著書がある、元広島国際学院大教授(マーケティング論)でノンフィクション作家・迫勝則氏。

 打点王争いのトップに立つ(9月10日現在)が、獲得すると、元巨人の王貞治氏のセ・リーグ最年長記録(38歳)を塗り替える。

「MVPは新井か菊池涼介のどちらかではないかと、ファンの間では盛り上がっています。打点王に輝けば新井じゃないかと思っています」(迫氏)

 新井はプロ野球ファンの間で「新井さん」と親しまれ、カープ女子の間でも人気だ。

「彼は“人生の蓄積”みたいなものを背負って打席に入っていますからね。イケメン選手だけに応援が飛んでいるわけではありません。若い女性らが、曲折した新井の野球人生に共鳴するわけです」(同)

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