9人が亡くなったグループホーム。大量の流木が押し寄せ、壁には濁流の跡も残っていた (c)朝日新聞社
9人が亡くなったグループホーム。大量の流木が押し寄せ、壁には濁流の跡も残っていた (c)朝日新聞社

「私の判断が遅かった。本当に申し訳ありません」

 岩手県、北海道を中心に甚大な被害をもたらした台風10号。岩手県岩泉町の高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」では9人が遺体で見つかった。同ホーム運営法人の佐藤弘明常務理事は9月1日、報道陣の取材に、涙ながらに陳謝した。

「水かさが10分あまりで急激に増し、助けることができませんでした……」

 亡くなった9人は、70~90代の認知症の高齢者。うち2人は車いすでなければ移動できなかった。施設そばを流れる小本(おもと)川が氾濫(はんらん)し、平屋建ての建物が浸水。同敷地内にある介護老人保健施設(3階建て)にいた85人は2階以上に避難し、全員が無事救助された。

「避難計画がなかった」という備えの不十分さを含め、ホーム運営側の甘さを指摘する声は多い。

 宮城県で介護支援を行う「さんりん福祉会」理事長の深澤文雅さんは、こう話す。

「台風の危険性があれば、臨時に職員を増員するなどの対策が必要。隣の老人保健施設との連携が薄かったのではないか。報道を見る限り、フォロー体制の手薄さを感じてしまいます」

 河川近くのホームの立地を問題視する声も多いが、認知症介護に詳しい岩手県立大学の吉田清子准教授(社会福祉学部)は、「環境はグループホームの趣旨に沿っている」と指摘する。

「認知症のグループホームは、静かな環境で少人数で穏やかに暮らすことが目的。川沿いの落ち着いた環境は、ホームには適しています。また、避難のことを考えると、2階建てより平屋造りのほうが望ましい。施設の造りに大きな問題があるとは考えにくいです」

 今回の水害で特に問題視されているのが、河川近くの高齢者施設でありながら、避難計画がつくられていなかったことだ。ただ、水防法に書かれている避難計画の策定はあくまで“努力義務”。施設があった区域は、県が浸水想定区域の検討をしながら、東日本大震災の影響で指定が先送りになっていた。ホームは火災訓練はしていたが、水害に備えたものはなかった。

 水害の避難モデルを研究している徳島大学環境防災研究センターの中野晋センター長は、こう釘を刺す。

次のページ