こうしたメカニズムが明らかになり、欧米では1990年代から、面皰には毛の出口を開く薬(アダパレンなど)、炎症性皮疹には抗菌薬など抗炎症作用のある薬が使われてきた。

 ところが日本では長い間、毛の出口を開く薬がなく、抗菌薬が治療の柱だった。それが08年、アダパレンの保険適用でニキビ治療は大きく進んだ。それを機に日本皮膚科学会は「尋常性ざ瘡治療ガイドライン」を発表。その作成委員の一人が宮地医師だ。アダパレンは非炎症性皮疹(面皰)の治療として、「推奨度A」にランクされた。

 その後、15年には「過酸化ベンゾイル(BPO)」も使えるようになった。これは抗菌薬とは違うメカニズムでニキビ菌を殺す薬で、毛の出口を開く作用も持っている。つまり、おもな標的は炎症性皮疹だが、面皰にも効果がある一石二鳥の薬だ。また同年、抗菌薬のクリンダマイシンとBPOの配合剤も登場している。

 これを受けて16年にガイドラインが改訂された。特徴は、治療の経過を急性炎症期と維持期に分けた点だ。

 治療によって炎症性皮疹も面皰も消え、治ったと思いがちだが、微小面皰というニキビの種のようなものが残っている。薬はそれをなくし完治させるのが狙いだ。

「理想を言えば面皰の段階で治療してほしいのですが、患者さんのほとんどは赤ニキビになってから受診されます。それでも遅くはありません。その段階なら、治療に多少時間はかかりますが、治せます。しかし、瘢痕になると治すのは難しくなります」(同)

 浜松市の佐藤彩さん(仮名・20歳)は、高校時代からニキビに悩まされてきた。雑誌などの情報を参考にニキビ用化粧品でケアをしてきたが、顔の赤ニキビが徐々に増えていき、外出を控えるなど生活全般が消極的になっていった。

 16年2月、20歳の誕生日に「このままではいけない」と思い、翌日に聖隷三方原病院皮膚科を受診した。

 佐藤さんは、左右の頬にそれぞれ10個ほどの炎症性皮疹があり、面皰も認められた。皮膚科部長の白濱茂穂医師は、中等症のニキビと診断し、アダパレンと外用抗菌薬の「オゼノキサシン」を処方した。

 オゼノキサシンは16年1月に発売された。それまで、適応症にニキビが挙げられているものは、「クリンダマイシン」と「ナジフロキサシン」の2剤だった。

「抗菌力の強い薬剤が増えたことで、治療の選択肢が広がりました。抗菌薬には耐性菌が生じる問題がありますが、薬の種類が増えれば耐性菌は作られにくくなります。高い治療効果だけでなく、その点でも期待できると思います」(白濱医師)

 白濱医師は、薬の使い方を次のように指導した。

▼どちらも1日1回、夜使用する
▼洗顔後、まず乳液か保湿剤を顔全体につける(アダパレンは使い始めの1~2週間、皮膚が乾燥しやすく、刺激を感じやすいため)
▼次に、アダパレンを顔全体に塗る
▼その後、赤くなっている部分だけにオゼノキサシンを重ねて塗る

 2週間後の再診で、佐藤さんは赤みが薄らいだと喜んだ。

週刊朝日  2016年9月9日号より抜粋