左から、83歳のブレンダ、72歳のマリー、レイラ、筆者をはさんで75歳のレン(撮影/写真部・長谷川唯)
左から、83歳のブレンダ、72歳のマリー、レイラ、筆者をはさんで75歳のレン(撮影/写真部・長谷川唯)

 ニュージーランドに住む平均年齢83歳のチームがヒップホップダンスの世界大会で見事な群舞をこなし、その奇跡が映画化されたことで彼らの来日が実現。認知症早期治療実体験ルポ「ボケてたまるか!」の筆者であり、MCI(軽度認知障害)当事者・山本朋史記者(64)が、認知症予防に効果ありと聞きダンスに挑戦した。

*  *  *

 担当デスクから5人の取材を言い渡されたとき、正直、戸惑った。ぼくは、認知症早期治療を始めて2年半。科学的データからも改善の兆しが見えてきたところだ。2冊目の拙著『認知症がとまった!? ボケてたまるか 実体験ルポ』(小社刊)を出したばかり。ここで、ヒップホップダンスについていけないと恥をかく。不安だった。

 だが、尻込みしたら意気地なしと笑われる。認知症予防にいいことなら何でもやってみようと宣言した手前もある。好奇心も募って、8月17日に虎ノ門にある映画配給会社のポニーキャニオンに向かった。銀座線虎ノ門駅から、真夏の太陽が照りつける道路を歩いて道に迷った。喫茶店でアイスコーヒーを飲んで道を尋ねた。トイレで小用をたし気持ちを落ち着かせた。目的地に着くと玄関でカメラマンが待っていた。

 映画ライターと関係者に挨拶(あいさつ)をして取材を始めると、85歳のジョン・ロング、83歳のブレンダ・ロング夫妻を先頭に5人が入ってきた。通訳が同行している。英語が話せないぼくとしては安心。ところが、5人の前に座る直前にズボンのチャックが開いているのがわかった。喫茶店のトイレで閉め忘れたのだ。ミスはぼくの代名詞みたいなものだから深くは考えまいと気をとり直した。

 でも、動転していたのだろう。いきなり質問を始めてしまった。

「ヒップホップの世界大会に参加すると言われたときには驚きませんでしたか」

 通訳が質問を5人に向けたが、映画ライターがぼくの耳元でささやいた。

「まず、自己紹介をされたほうがいいのでは?」

 そのとおりだ。謝って、ぼくは自分の説明をした。

「私は軽度認知障害(MCI)、認知症予備軍と診断されて早期治療をしている週刊朝日の山本です。筋トレや音楽療法などをデイケアでやって改善に向かっています。ヒップホップダンスは認知症予防にもいいと聞きました。映画のことも聞きたいのですが、後でダンスを私に指導していただけませんか」

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