西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、日本ハムの怒涛の猛追に、今こそソフトバンク工藤公康監督の真価が問われているという。

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 3年連続日本一を目指すソフトバンクが最近10試合で2勝8敗と失速し、2位の日本ハムが一気にゲーム差を縮めてきた。本欄を書いている8月16日時点でゲーム差は1。もう先行きがわからなくなった。

 先月末に工藤公康監督にインタビューする機会があり、そのときに冗談で「少しは公康の苦労した顔を見てみたいよ」と話したが、まさかこんな展開になるとは思わなかった。6月に最大11・5ゲームあった差が2カ月でなくなった。「1カ月で5ゲーム」縮めることが難しいといわれる今のプロ野球で、2カ月連続で詰められてきているのだから、工藤監督の重圧は相当なものだ。

 今月6日の直接対決で、大谷翔平が2本塁打を放ったことで一気に日本ハムの流れが来た。前日の試合でソフトバンクが先勝し、日本ハムにとっては連勝しかない中での2戦目だった。

 初回、ソフトバンクバッテリーは5球連続で内角高めに投じて空振り三振に斬ったが、2打席目で大谷が真ん中高めの速球に迷わず踏み込んできた。そして七回にも左翼席へ。以前、当欄で「大谷を封じるには内角高めをどれだけ突けるか」と書いたが、今の大谷はその上をいっていた。内角への意識づけをしても、モノともしない心の強さと技術がある。あきれるほどの打撃の成長ぶりだ。

 大谷は右手中指のマメの影響で二刀流の起用ができない状況だが、それも功を奏している。今、打線から大谷を欠くことはできないだろう。中田も少しずつ復調していて、打線には打ちだしたら止まらない爆発力がある。栗山英樹監督の采配も当たっており、相当な勢いがある。

 それをソフトバンクがどう突き放していくか。就任2年目の工藤監督の腕の見せどころでもある。試合前の練習中には普段通り、選手や評論家と笑顔で接している。でも、内心は穏やかではないはずだよ。打線には今、終盤の勝負強さがない。柳田を1番に入れたり、吉村を4番起用したりと、打順に工夫はしているが、腰痛で戦線離脱中の内川が戻ったときにどうするか。工藤監督なら、3番・柳田、4番・内川、6番・松田という開幕のオーダーに戻し、原点回帰で最後の1カ月を戦うのではないかな。

 
 これまでは選手のコンディションを注視してオーダーを組めば、試合に使った選手が自然と活躍してくれた面があるだろう。歯車が狂っても、わずかなメンテナンスで済んできたはずだ。本来、チーム作りというのは、開幕から戦い続ける中で弱い部分を補い、秋に戦える土台、戦力を少しずつ整えていく。しかし、ソフトバンクは戦力が整い強すぎていたが故に、歯車が狂ったときの対処法を考える機会が少なかった。ここから真価が問われる。

 ソフトバンクは選手に無理を強いてこなかった分、日本ハムよりも余力はあるはずだ。しかし、いざアクセルをふかそうとしても、ふかせないことも多々ある。日本ハムは上昇気流に乗っており、気持ちの面での疲れはない。

 現時点では、19〜21日の札幌ドームでの直接対決3連戦がどんな結果になっているかわからないが、工藤監督がチームをどうやって再び軌道に乗せていくのか、じっくりと見たい。

週刊朝日  2016年9月2日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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