作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、男性社会において語られる男性の「女ウケ」に苦言を呈する。

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 映画「シン・ゴジラ」について語る、東宝取締役のインタビューが話題になった。庵野秀明監督が「(『シン・ゴジラ』は)大人向けにしよう」「女性とか子どもとか意識しない」と言ったので、東宝として「腹をくくった」という内容だ。当然、「女は大人じゃないのか」という批判が起きた。

 で、この批判に対し、男性インタビュアーは、女性や子どもを排除する意味はない、ということを繰り返し釈明していた。排除ではなく、「恋愛の要素を無理に加えない」という意味だと。また、マーケティングの観点から彼を擁護する人もいた。批判、届いてない。

 批判者たちは「排除された」ことに怒ったのではないと私は思う。というか、男の人って自分が排除されることに敏感だけど、日本社会を生きてる女って、排除され慣れてるのよ(土俵レベルから経済界レベルまで、色々よ)。怒りを向けたのは、単純に、バカにされたからでしょ。排除しないで!というお願いではなく、「無礼だよ?」って指摘しているのです。

 ちなみに、私は「シン・ゴジラ」、大変面白く観ました。で、あのインタビューを読んで感じたのは、怒りよりもまず、ストンと胸に落ちた明確な事実。なるほどね、日本の映画やドラマが近年、低迷し続けた理由って、ここにあったのかもね、と。「シン・ゴジラ」もパンフに大きく名前が載る制作者の9割が50代男性だけど、そのような男性社会で、男たちの考える「これが女に受ける」というものが、いかに女に寄り添わないかを、改めて教えていただいたように思った。

 
 2000年代の韓流ドラマブームは、大げさでなく、多くの女の人生を変えた。韓国語を学び、情報収集のためにネットをはじめ、お金が必要になって働きに出る……そんな女性たちを私は取材してきた。韓流といえば、「電通がしかけたんだ」とか「韓流はメロドラマだから女が好む」とか言いたがる人は少なくないけれど、実際に韓流にはまった女たちに話を聞いて実感するのは、「女をバカにしない」物語に日本の女たちが深く飢えていた事実だった。例えば、「善徳女王」という時代劇は良い例だと思う。王を目指す女と、王妃を目指す女が対峙し、国家について語り合うシーンに、私は衝撃を受けたものだ。「民とは夢をみたいものだ」「いいや、民は事実を知りたいのだ」。こんなセリフを女の権力者二人に語らせる日本の時代劇を、少なくとも私は観たことない。想像もできない。

 マーケティング的に女性客が入らなければ興行的にヒットしない、というプレッシャーは制作者側に常にあることなのだろう。でも、その時に考える「女性客」のリアルを、決定権を持つ男性たちは、どれほど見ているのだろう。隣に生きている女の息づかいを、どれほど、繊細に感じているのだろう。

 ちなみに私は、「シン・ゴジラ」の余貴美子さんに痺れた。日本にはいい役者さんがいっぱいいるのだなぁ、と改めて思う。良い日本映画、ドラマもっと観たい。

週刊朝日 2016年9月2日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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