私は6畳の部屋で一人、パレードを見ました。馬車に乗ったお二人のお顔が目の前にいるようにアップで映し出された。これからはテレビの時代だと直感しました。私が脚本書きとして映画の世界に見切りをつけてテレビの世界に活路を見いだそうとしたのも、このパレードがきっかけでした。

 当時、テレビ業界は産声をあげたばかり。映画の人たちからは下に見られていました。映画からテレビへ移ると、

「あいつもとうとう落ちぶれたな」

 と陰口をたたかれたものです。でも、私は黎明(れいめい)期だったテレビに男女差別を感じることはなかったし、脚本を書くことがおもしろかった。この世界に魅了されていきました。

 今回のビデオメッセージを見て、ゆっくりと語りかけるように原稿を読まれた天皇陛下に、あらためて親近感を感じた国民も多いと思います。私には、すぐ目の前においでになるような感じさえしました。陛下は映像をうまく取り入れられました。

「テレビ時代の天皇陛下」

 と感じました。いま論議が始まった「生前退位」など制度上の難しい問題は私にはわかりません。ただ、82歳になる陛下には「公」の世界ばかりで自由がほとんどないということはよくわかります。お疲れになると思います。毎年、年を取られるわけですから、これからはもっと両陛下二人だけの「私」の時間をできるだけ多く持たれるようになればいいのにと思いました。

 もちろん震災などで現地に行かれて両陛下が直接語りかけられる重みというのは大きいと思います。しかし、必ずしも現地にお運びになられなくても今回のようなビデオメッセージで励まし勇気づけられるのも一つの方法だと思います。

週刊朝日  2016年9月2日号より抜粋