「ヘルプマン!!」では、妻の気持ちを理解するために、夫がおむつをつけ排尿を試みるシーンが描かれる。

 研修でも、1日目の夜におむつの装着・排尿体験が必修だ。まずは寝た状態で排尿を試みるが、ほとんどの人が出すことができない。「おむつに排尿するのがこれほど難しいとは……」と痛感するそうだ。

 ほかにも「パッドに尿は吸収されてはいるものの、ずっしりと重くなったおむつは不快。本人は早く替えてほしいと思っているはずだ」「今のおむつは性能がいいことはわかっていても、排尿中、漏れるのではないかと気が気でなかった」「排尿後は早く交換しないと歩行や座位に影響があるとわかった」といったさまざまな実感が寄せられる。

 ライターも体験してみたが、寝た状態ではなかなか排尿できない。ようやく出始めたが、すっきりするどころか惨めな気持ちになった。生前の母に「夜はおむつの中に排尿すればいいよ」と言ったことを後悔した。

「ささやかでも当事者の立場になってみることは大事。相手の気持ちになって考えれば、おのずと対策は見えてきます」と浜田さん。

 浜田さんがおむつにかかわるようになったのは、30年以上前のこと。当時重い糖尿病を患って入院していた母親は、白内障で目がほとんど見えなくなっていて、トイレに行こうとして転倒。看護師から、危ないのでおむつで排泄したらどうかと勧められた。

「母は『おむつだけは嫌だ』と言ったのですが、私も母が安全な状態でいるほうが早く回復すると思っておむつを勧めました。しかしおむつを当てられるようになった母はベッドから起き上がろうとしなくなり、食事もほとんど食べず、ひと月後に亡くなりました」

 因果関係はわからないが、浜田さんの心の中に「おむつを使わなければよかった。でもどうすればよかったのか」という思いが残った。それが原点となって排泄用具について研究し、03年に排泄関連の相談に応じる「むつき庵」を開設したという。浜田さんはこう続ける。

「むつき庵には、介護をしている家族だけでなく、医療や介護の専門職など、さまざまな人も相談に来ました。介護のプロと言われる人たちでも適切な排泄用具を選べていないことに気づいたんです」

週刊朝日  2016年8月19日号より抜粋